あの日にまだ縋ってる28


 人けのない建物に引き立てられる。
 背中に、古いコンクリの感触が伝わる。氷みたいに冷たかった。指先から、震えてくる。

「わかってんだろうな」

 男たちは凄んでいた。俺は、彼らの顔に見覚えがあることがわかった。
 この人たち、瀧の友達だ。私服を着てるけど、間違いない。いつも、俺のこと、すごい怒った目で見てた。あの時と同じ――もっと怖い目をしてる。

「な、何の用ですか」

 まったく知らない人じゃないなら……。俺は、一縷の望みをかけて、尋ねる。彼らは、「は?」と嗤った。

「っ……!」

 顔の横、思い切り壁に手をたたきつけられた。高い音と、衝撃に、俺は目をつむった。
 叩きつけた男は、俺を睨みおろした。たぶん、この中で一番偉いんだ。皆、この人の後ろについて嗤ってる。
 同じ学校の生徒なら。そんな気持ちを、粉々にしてくるみたいな、嫌な気配。俺の心臓の音ばかり聞こえる。落ち着け、何度も言い聞かせる。

「消えろ」

 男が言った。

「学校辞めて、俺たちの前に二度と姿見せるな」

 息を呑む。
 男は、続ける。低くて、ざらついた声。

「志島(しじま)先輩にも、瀧にも近づくなよ」

 そう言って、ポケットからスマホを取り出す。操作すると、俺に向けてかざした。

「ほら、誓え」

 俺を壁に背をつける。スマホは追ってきた。画面に深くついた指紋が、やけに目につく。

「録音してるから、破ろうなんて思うなよ」

 俺等、お前の家知ってるからな。

 男たちの言葉に、全身から血の気が引いた。
 どうして。なんで……?
 がたがた、勝手に身体が震えだす。怖い。

「震えてんじゃん!」
「きもちわる!」

 後ろの男たちの囃す声さえ、ナイフみたいに聞こえる。男は、画面を近づけて凄んできた。

「ほら、さっさと誓えよ。『二度と、瀧にも先輩にも、近づきません』ってよ!」

 男がそういうと、周りが、圧すみたいに声を上げた。何か言葉があるわけじゃない。ただ、音のある圧みたいに襲ってきた。
 どうしよう。断ったら――俺は、どうなるんだ。
 指先が、凍るみたいに冷たい。男たちの目を見た。暴力的な光を、みなぎらせて、笑ってた。

「いやです」


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