あの日にまだ縋ってる27


「でね、皆、すごい喜んでて……」

 今日あったことを、面白おかしく教えてあげる。合宿のことも、僕にひとつも得なんてないけど仕方ない。
 大会の追い込みで忙しい、お兄ちゃんの息抜きを作ってあげないとね。僕はああ言う人とは違うもん。

「ねえ、聞いてる?」

 お兄ちゃんはじっと黙ってた。
 ていうか、さっきから早足もいいところなんだよね。せっかく待ってたのに、これってどうなの?

「お兄ちゃん、気遣えなさすぎ! もっとペース――」
「来るなんて聞いてないが」

 お兄ちゃんが、ひとこと、低い声で言った。
 はあ? 僕は眉を寄せる。

「いちいちお兄ちゃんの許可が必要なの? 差し入れに行ってあげたんだよ!」
「必要だろう。お前はあそこの生徒じゃない」

 お兄ちゃんは歩きながら言った。忠告したのに、ペースは変わらずだ。僕はほぼ、駆け足でついてく。

「俺の弟だから、入れているんだぞ」

 手柄を誇った言い方に、流石にムッとする。

「何それ! 僕だって、もともとあそこに通ってて――」
「今は通ってないだろう。部活の差し入れについてもそうだが」

 お兄ちゃんは止まらない。足も口も。

「皆、お前を気遣ってくれていることを忘れるな」
「な……」

 僕は啞然とする。

「何それ……! 差し入れ持ってってあげてるのに!」

 あんまりにも感謝がないよ。
 やってもらって当たり前だと、思ってるの? お兄ちゃんは、前を向いたままだ。

「皆、感謝はしている。だから俺も、お前を追い出したりはしていないだろう。皆が喜んでいるからな」

 お兄ちゃんは突然足を止めた。駆けてた僕はつんのめる。お兄ちゃんは、僕に静かに向き直った。

「それをわかって来ているんだろう。お前は、昔からそうだ」

 冷めた目に、僕は固まる。

「言っておくが」

 お兄ちゃんは続けた。

「俺は今回は絶対に引かない。お前が樟くんに謝って、自分の性格を見直すまで、お前を許す気はない」

 そう言って、去っていった。
 気づいたら、家の前だったんだ。お兄ちゃんは、門の中にも入らないで、どこかへ向かっていった。
 僕は呆然と、その背中を見送って――それから追いかけた。高い身体能力を活かして、お兄ちゃんの後をそっとつける。何だか、嫌な予感がしてたんだ。

 お兄ちゃんは、オメガ御用達のお店で、ゼリーを買ってた。
 もしかしたら、ああは言っても、僕へのお礼なのかも。そう思おうとするけど、胸騒ぎが止まらない。予感通り、お兄ちゃんは家の方には戻らなかった。
 知らない道を通って行って、住宅街へ入る。僕は影のように追いかけて、お兄ちゃんを見てた。
 そして、お兄ちゃんが、ある家の前で止まった。インターホンを鳴らし、待ってる。
 どきどきして、汗が噴き出してた。ずっと駆けてた分の疲れをおさえる。じっと息を殺して見てた。



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