あの日にまだ縋ってる27


 頬に伝わる震えで、目が覚めた。
 床の上に置いたままのスマホが、振動してる。薄暗い部屋に、白い光が四角く明るかった。
 寝ちゃってたのか。ぼんやりスマホを手に取って、目を見開く。
 先輩からの着信だ。そこで、意識がはっきりと覚醒する。俺はスマホを握りしめた。手が震えて、呼吸が浅くなる。
 どうしよう。スマホはずっと、鳴ってた。いつからかかってたかも、わからない。
 ――出なくちゃ。目をかたくつむって、受話器をあげた。

「は、はい……」
「樟(くぬき)くん?」
「はい」

 声は情けなく震えてた。そっと何度も息をつく。

「大丈夫か。体調を崩したと、先生に聞いてな……」
「あっ」

 先輩、教室に来てくれてたんだ……。それで。

「す、すみません」

 俺は、スマホの向こうの先輩に、頭を下げた。また迷惑かけた。息が喉に戻りそうになる。指を噛んで、一生懸命気持ちを落ち着けた。

「謝らなくていい。今もつらいか?」

 先輩の声は、すごく穏やかだった。

「へ、へいきです」

 頬がふるえる。強張った目から、勝手に涙が落ちた。

「――はい、すみません。ありがとうございます」

 お大事に、と通話が終わる。
 動けなくて、そのままずっとスマホを持ってた。体が痛いくらい冷たい。どうしよう。また、迷惑かけた。また……。

『皆、嫌々あなたに優しくしてるんです』
 佐保(さほ)ちゃんの言葉が蘇る。
 先輩は、優しい。けど、このままじゃ駄目だ。甘えちゃ駄目なんだ。でないとまた……。

「げほっ、ひ、っ、ひ――」

 息が戻り始めた。震える手で、カバンをさぐる。ない。紙袋、最近は持たなくなってたから。俺は床を這った。落ち着け。大丈夫、死にはしない。大丈夫。
 皆のことだって。頑張れば、きっと――。



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