あの日にまだ縋ってる26


 気がついたら、俺は家の玄関にへたり込んでた。
 あれから、どうしたか覚えてない。あれ以上、迷惑かけてないことを、祈るしかなかった。本当に、何してるんだろう。

「うぅ、げほっ」

 頭がぐらぐら揺れる。
 佐保ちゃんの言う通りだった。俺は迷惑しかかけられてない。お腹の底が、ずっと冷たくなった。倒れ込んだ床の硬さが、体にしみだす。

「……ちがう」

 皆のあたたかい笑顔を思い出す。皆の気持ちを疑うなんて駄目だ。皆、こんな俺をやさしく迎えてくれたんだから――。
 でも、そんなの、俺が思っていいことなのか?
 こんなに迷惑しか、かけてないのに――。

「ちが、っ、……」

 笑ってくれた。皆、優しくしてくれた。

『理央』

 やわらかな声が、脳裏に蘇る。
 ひゅっと、息が戻る。喉が変なふうに詰まって、酷く咳き込んで、俺は胸を叩いた。
 父さん。
 ――たき
 ずっと、優しかった。ふたりは、俺にずっと優しい笑顔で迎えてくれた。なのに……。
 違う……!
 床に伏せったまま、どうにかスマホを手繰り寄せる。開いて、メッセージを見た。朝と晩に届く、やわらかい言葉をなぞる。
 大丈夫。
 大丈夫、大丈夫。
 ――でも、何で……?

「けほっ、こほっ! うぅ……」

 歯を食いしばり、おびえを振り払おうとする。涙が生き物みたいにぼたぼた頬を伝ってく。
 信じたい。なのに、胸の内が、穴があいたみたいにそぞろで、踏ん張れない。だって、どうして。
 どうして俺が、それを受け取れるんだろう? 皆の気持ちに応えられるよう、頑張らなきゃいけないのに。全然、頑張れてないのに――。

 玄関が、真っ暗になってく。夜の中に、俺の輪郭は消えていった。答えの出ない問いを、ずっと抱えたまま。

 《完》


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