あの日にまだ縋ってる25


「お願いします!」

 剣道教室で、俺は竹刀を振るっていた。

「はっ!」

 重心が振れないように注意しながら、一振り一振り、丁寧に振る。竹刀を握ってると、なんだか心が澄んで、ひたむきな気持ちになった。
 落ち込んでも仕方ない、一歩ずつ頑張ろうって。足先に力を込めて、踏み込んだ。

 休憩時間になって、ふうと息をつく。たくさん流れてくる汗を拭いながら、かなちゃんとみくちゃんとお話する。

理央りおくんも、合宿行くんだよね?」
「うん」
「楽しみ〜!」

 ふたりの弾んだ声に、俺も笑顔になる。他の皆からも、わくわくした気配が伝わってた。
 ここでは毎年、夏と冬に合宿をしてくれるんだって。海に行くらしいんだ。砂浜を走ったり、花火とか、剣道以外のこともやるんだって。
 すごいなあ。合宿なんて初めてのことで、どきどきする。今までだったら、「迷惑かけるかも」って、遠慮してたかもしれない。
 けど。

「楽しみだね」

 思いきって、挑戦してみることにしたんだ。体力もついてきたし、もっと前に進んでいきたいって思った。俺は剣道場を見渡す。明るい日差しの入る、あたたかい光景。見てると、ありがたくて不思議な気持ちになる。頑張ろうって気持ちが、たくさんこみ上げた。

「ありがとうございました!」

 礼をして、皆で片付けをする。

「理央くんまたね!」
「うん、またね」

 みくちゃんとかなちゃんが、扉の前で俺に手を振る。俺も手を振り返した。ふたりともこれから塾らしくって、単語を確認しながら元気に駆けてった。ほほえましくて、しばらく見送る。皆も、俺に「またね」って笑って帰ってく。嬉しかった。

「ありがとうございました」

 俺も、扉の前から教室に向け、頭を下げる。先生は穏やかに「お疲れ様」と送り出してくれた。

「気をつけて帰るんだよ」
「はい!」

 俺はもう一度頭を下げて、教室を後にした。

「美味しい」

 差し入れにいただいたオレンジ味のアイスを、大切に食べた。外の熱気のなか、冷たさとビタミンが体に心地良く染みてく。
 いつもいただきっぱなしだなあ。何かお返し出来たらいいんだけどな。何が出来るかな。
 先輩にも、何か……。

 そこで、俺の思考は止まった。
 家路に繋がる電信柱の向こう、長い影が伸びてた。影の持ち主の白い足が、ゆらりと繋がってる。

「――何してるんですか?」

 佐保さほちゃんが、立ってた。



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