あの日にまだ縋ってる22


「そういうことなら、一緒に過ごさないか?」

 先輩の言葉に、俺は目を瞬かせた。
 今はお昼。先輩と一緒にお弁当をいただきながら、色々話してたんだけど。
 先輩は穏やかな様子でお茶を飲み、続けた。

「夏休みは俺も部活があるから、登校するんだ」
「はい」

 俺は頷く。先輩は、夏の大会に向けて毎日すごくハードに練習してる。なのにどんどん晴れやかになる笑顔は、本当にすごいのひと言だ。

「君さえよければ、こうして昼の時間を過ごしたい」
「い、いいんですか? 夏休みまでお世話になって……」

 俺としては、嬉しいけど。先輩はすごく大変なのでは……。俺が慌てると、先輩は朗らかに笑った。

「俺としてはむしろ助かる。楽しみは欲しいからな」
「せ、先輩……」

 思わず胸がじーんとする。何でこんなに、先輩って優しいんだろう。ほおの内側からじわじわ嬉しさがしみてくる。ぎゅっと手を握り合わせた。

「嬉しいです。俺も……」

 勝手に笑顔がこぼれる。ぱっと顔を上げた。

「先輩と一緒にいるの、すごく楽しいです」
「えっ」

 先輩が、玉子焼きを取り落とした。

「す、すまない!」

 と慌てて拾いあげる。慌てた様子に、俺はきょとんとする。でも、なんだかあったかい気持ちになった。

「嬉しいよ」

 咳払いをしながら、先輩は口元を隠した。
 あたたかい。先輩は、いつもそうだ。申し訳なく思うほうが、申し訳ないって思えるくらい。にこにこしていると、先輩も、笑顔を返してくれた。

「俺、たくさん美味しいお茶いれます」
「ああ、ありがとう」

 それから、ゆっくりご飯を食べて。俺と先輩は、夏休みのことをたくさん話した。優しい味付けが、じわりと広がる。美味しいって実感する。
 本当に、たくさんのものを貰ってる。勉強も、剣道も……。
 俺も先輩に、お返ししたいな。食後のお茶を飲みながら、俺は思った。


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