あの日にまだ縋ってる21
片付けを終えて外に出ると、紺色の空の向こうが、まだ微かに黄色かった。
「綺麗ですね」
「そうだな」
本当に日が長くなった。夏が来たんだ。拭いたばかりの肌がもう汗ばむ。
「理央くん、樹くんまたね!」
「うん、塾頑張ってね」
「前を向いて駆けなさい。気をつけてな」
みくちゃんとかなちゃんたちが、手を振って駆けていった。元気な様子に、先輩と顔を見合わせて笑った。
「俺たちも帰ろうか」
「はい」
先輩と、帰り道を歩き出した。
「先輩は塾に通ってますか?」
「いや。勉強は自分のペースでしたくてな」
「そうなんですか?」
「ああ。気まぐれなんだ」
空の色と混ざった影を、街灯がまた照らしてた。剣道のこととか、勉強のこととか、色んな話をする。車が通って、先輩がさっと、俺をかばった。熱の気配が近くなる。
「すまない。大丈夫か?」
「はい。先輩こそ、大丈夫でしたか?」
車道側は先輩なのに、俺を心配してる。優しいな……。俺は先輩の背中をそっと見る。先輩は「平気だ」と笑って手を挙げて見せた。あまり颯爽としてるから、俺も思わず笑った。
「じゃあ、すぐに家に入るんだぞ」
「はい。先輩、いつもありがとうございます」
「俺が送りたいんだ。また明日な」
「はい。先輩も、お気をつけて」
俺は頭を下げて、家の中に入る。先輩は、ドアが閉まるまで、手を振ってくれていた。
「ただいま」
ひとりの家に、俺はきちんと声をかける。明かりをつけて、部屋の中に入った。
ご飯、何を食べよう。お腹にそっと手を当てる。あたたかさだけ残るそこが、軽やかに音を立ててた。
《完》
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