あの日にまだ縋ってる19
「すごかったねえ!」
「うん。本当に」
熱戦を見て、ぼうっとしてる俺に、先生がやってきた。
「理央くんも、竹刀を持ってみるかい?」
そう言って、差し出してくれた。俺はどきりとする。
「いいんですか?」
「体験だから、触ってみないとね」
「はい!」
俺は竹刀を受け取る。教えられた通り、握って、構えてみる。背筋をそっと伸ばされて、ゆっくり息をした。
どきどきする。なのに、なんだか、頭のなかが静かになっていく。
「どうだい?」
先生に聞かれて、われに返った。
「は、はい。ありがとうございます」
俺は一気に身体が熱くなってきた。気持ちがせり上がってくる。
「な、なんだか、気持ちがさえますね」
「うん。いいね」
先生は、笑って俺を見てた。その目は、中学のときの、担任の先生に似てる。俺が、問題が解けたとき、浮かべてくれたもの。懐かしくて、ありがたかった。
「ありがとうございました!」
頭を下げて、片付けを終えて。着替えにみんなが向かう。
「理央くん」
先生が、俺に声をかけてくれた。
「どうかな、今日、体験してみて」
「すごく楽しかったです。ありがとうございました」
「そうか。嬉しいよ」
先生の穏やかな声を聞きながら、胸の奥に、たくさんの気持ちがわきあがってきてた。
やってみたい。ここにまた来たい。――でも。俺は、先生を見る。
「あ、あの。俺、オメガなんです」
先生が、俺を見る。俺は言葉を続ける。
「いきなりすみません。それで、体調も乱れやすくて……」
言いながら、ひどく恥ずかしかった。皆一生懸命やってるのに。甘えたことを言ってると、思われるかもしれない。けど、不安だった。ここで、迷惑をかけたくない。
「そうなのかい」
「は、はい」
先生の言葉に、俺は肩を縮めた。
「なら、なおさら剣道はいいことだね」
俺は、顔を上げる。先生はにこにこ、あたたかい笑みを浮かべてた。先生は道場を見渡す。着替えた子どもたちが、にこにこ笑い合ってお迎えを待ってる。
「オメガの子はもちろん、いろんな子がうちにきてるんだ」
皆を見る先生の目は優しい。慈しみ、と言う方が合ってるかもしれない。先生は俺に向き直る。
「安心しておいで」
俺は息を呑む。こみ上げる気持ちのまま、頭を下げた。
「ありがとうございます!」
笑った目に、涙がにじんでた。