あの日にまだ縋ってる19
放課後、俺は先輩と歩いてた。
「樟くん、つらくないか?」
「はい。先輩こそ、すみません。部活が……」
「大丈夫だ。テスト前だからな」
にこっと笑われて、俺も笑う。優しい先輩。でも、どこに行くんだろう? 俺は先輩の横顔を見あげていた。
通学路をこえて、小さなお店が並ぶ道にはいった。その一角で、先輩は止まる。そこから細い道に入ると、引き戸があった。
掛け声が響く、明るい部屋の中。道着姿の子たちが、思い思いに竹刀を振るってた。
「わあ」
思わず声が出た。剣道場だ。
「こんにちは」
先輩が、中に入ってあいさつした。よく通る声に、子供たちがぱっと振り返る。
「あーっ!
「ひさしぶりー!」
ぱたぱたとかけてくる。先輩は、笑って手を挙げていた。俺はきょろきょろ、道場を見てた。ひとりの子とばちっと目が合う。
「このお兄ちゃん誰ー?」
「友だち!?」
「こら、まずは挨拶だろう」
俺はまっすぐさに、ちょっと押されてた。それから、慌てて「こんにちは」と頭を下げた。子どもたちは笑って、
「こんにちはー!」
と頭を下げた。ぴしっとした礼に、圧倒されてしまう。先輩は、
「驚かせてすまない」
俺にやさしく笑った。先輩は、視線を道場のなかにめぐらせて、俺を見た。
「ここは、俺が子供の頃から通ってる剣道教室なんだ」
俺は小さく息を呑んだ。教室……剣道の。俺は先輩の言葉に、どきりと胸が高鳴った。
向こうから、眼鏡をかけた穏やかな男の人が歩いてきた。先輩は、頭を下げる。
「ご無沙汰しています、先生」
「久しぶりだね、樹くん。また背が伸びたね」
先輩は、その人――先生に、俺を紹介した。
「今日は友人を見学に連れてきたんです」
「そうなのかい? 珍しいこともあるものだ」
先生が俺を見る。俺は慌てて、頭を下げた。
「は、はじめまして!
「うん」
先生はにこっと笑った。俺の目をじっと見つめる。眼鏡の奥の目は、穏やかだ。
「見ていく? それとも、体験やってみるかい?」
「えっ」
予想外の言葉に固まる。扉が開いて、「先生、こんにちはー!」とまた子どもたちが入ってきた。先生は頷いて、また俺を見た。胸がドキドキしてる。
「は、はい! お願いします」
俺はおされるまま、頭を下げていた。