あの日にまだ縋ってる19


「駄目よ」

 母さんの言葉に、俺は俯いた。

「高ニから始めてもついていけないし、何にもならないわよ」

 ひとくち、お酒を飲むと、母さんは俺を見た。

「それより、まず体を治しなさい」

 そう言って、デリに箸をのばした。

「……はい」

 俺は、膝のうえに手を置いて、うなだれた。母さんに、「食べなさい」と促されて、頷く。
 母さんの言うことは、もっともだった。まともに学校に通えないのに、部活なんて。
 でも。
 ベッドの中で剣道の動画を見る。竹刀の打ち合う音、床の鳴る音をずっと、聞いていた。


「どうしたの?」

 呼ばれて、俺ははっと顔を上げた。握られた手の感触がはっきり戻ってくる。朝、通学路。となりでたきが、じっと俺を見てた。

「う、ううん」

 俺は首を振る。

「何でもない」

 俺は俯いた。瀧は、俺の顔を覗き込んだ。俺はそわそわ、目をそらした。瀧は息をついて、頭を撫でた。そうして、手を引いて歩き出す。
 俺は、瀧の背中を見てた。風が、瀧の髪をさらりと揺らした。光を受けて、色が透けてる。
 まばゆくて、目を細めた。俺は、俺の手を握る瀧の手を見下ろす。
 ……瀧は、俺が剣道したいって言ったら、嫌に思うかも。だから――。
 俺は首を振る。関係ないはずなのに。穏やかな時間に、気持ちがずっと、おかしかった。


 教室で、俺はひとり、トークルームを見てた。瀧からのメッセージをなぞる。

「おやすみ」と「おはよう」――もう一度つながってから、瀧は送ってくれるようになった。先生が入ってくるまで、それをずっと見下ろしていた。



2/8ページ
スキ