あの日にまだ縋ってる17
瀧の部屋で、俺は身を小さくしてた。あれよあれよという間に、瀧の家に連れてかれて、お風呂に入れられてた。
まんべんなくあたたまって、頭にタオルをかぶって、俺は思わず視線をさまよわせてた。
瀧の部屋は、配置は変わらないのに、なんだか全体的に落ち着いてた。もともと綺麗な部屋だけど、無機質というか、モノトーンになってる。
われに返って、首を振った。勝手に見たらよくない。床の一点を見つめ、髪をひたすらそっと拭いてた。身を縮めると、襟元ががばりと浮いた。借りた服は、瀧の部屋着だった。ふわりと洗剤の香りに混ざって、瀧の香りがする。身長は、そんなに変わらないのに、肩が出てしまう。首輪が丸見えになって、落ち着かなかった。
瀧が部屋に入ってきた。手に、ドライヤーを持ってる。俺は身を縮めて、タオルをかぶる。
瀧は、ふ、と息をつくと、歩を進める。コンセントをさして、俺の傍にきた。タオル越しに見上げるよりはやく、瀧が俺の前に座ってた。
「あ」
「背中向けて」
ドライヤーをつけて、手に当ててる。え? おろおろしてると、瀧が俺を見た。
「髪の毛、乾かさなきゃ」
そう言って、俺の肩を叩いた。そっと。
静かで、やわらかい目が、じっと俺を待ってた。俺は、俯いて、背を向けた。
ドライヤーの温風が、髪を揺らす。そっと、瀧の指が髪を梳くのに、目を閉じてた。うなじに触れられて、背中が跳ねた。
「ごめん」
瀧の声が、音のなかに消える。そっと、遠くに、いっそう慎重に触れられて、俺はずっと、どうしていいかわからず、身を固くしてた。
ただ、髪を乾かして、髪を梳かれた。ずっと、瀧の手は優しかった。俺からタオルを引き取って、瀧はドライヤーをしまいにいった。
膝を抱えていると、瀧が戻ってくる。手に、お茶の入ったカップを持ってた。湯気のたつそれは、飲み慣れた香りがした。
「ありがと……」
受け取って、そっと口をつける。瀧は隣に座って、じっと俺を見てる。
「肌、痛くない?」
「う、うん」
頬がうちから熱くなった。お風呂の前、瀧におなかを見られたことを思い出す。確認だけど、恥ずかしかった。俯いていると、そっと目元をくすぐられた。
見上げると、瀧の目と合う。瀧は片膝を立てて、ちょっと首をかしげて俺を覗き込んでた。俺はなんだか、見てられなくて、目を伏せる。それでも感じる視線から離れようと、顔をそむけた。
瀧が笑ったのが、空気の震えでわかった。
かあ、と胸から熱が上がって、顔が火照った。汗がじわりとにじむ。瀧の手が、俺の手からカップをとった。テーブルに置くと、俺の手を握り直す。瀧の手は熱かった。
顔をいっそう背けたら、瀧は笑った。からかうみたいな、響きだった。
頭の中がじわじわと焼かれるみたいに熱い。ぎゅっと目を瞑った。
「や……」
まつ毛に涙が滲んだ。
「ご飯食べましょ!」
かちゃりと、ドアがあいた。瀧の手が、ぱっと離れた。
おばさんが、ドアの向こう、笑顔で立ってた。
「勝手に開けないでよ」
「あら。開けちゃいけない理由でもあったの?」
瀧の硬い声と、おばさんの声が言い合う。目が合うと、おばさんに目配せされる。
「どうかしら。簡単なものだけど」
「あ」
「なに作ったの?」
俺が応えるよりはやく、瀧が立ち上がった。ドアの方へ向かう。おばさんは、
「サンドイッチとか。スープもあるわよ」
と答えてた。瀧も何か言いながら、キッチンの方へ歩いてった。
その背を俺は、じっと見送ってた。