実験場
屋台の途切れたとこで、たっちゃんとはしゃぎながらわた菓子を食うてたら、向かいの道に、同級生の男子どもが並んどった。みんな揃いの進学塾の鞄持っとって、向こうの建物から出てきたとこやった。
「何や塾組かいな」
たっちゃんがうそぶく。まきとるみたいにして俺のわた菓子を引き取って口に入れた。
「ちょっと取りすぎやん」
「ぼうっとしとるでやろ。溶けてまうで」
「わた菓子がとけるかい」
俺たちは笑って小突きあった。その間も俺は、ずっと、向こうにおるやつに釘付けんなっとった。
工藤くん、夏期講習の帰りか。
三年生くらいんときから、俺は彼のことずっと気になっとった。三年は階段ひとつ違いの縦並びのクラスで、たっちゃんとふざけながら階段で駆けてるときにようすれ違った。
一年と二年んときは、横並びのクラスで端と端やったんであんま会わんかって、せやさけ知ったんはその時やった。
「なんやしみったれたやっちゃのお」
たっちゃんは工藤くんのこと気に食わんみたいで、ピアノの演奏会みたいにいつも綺麗な格好しとる工藤くんのこと「気取り」言うて笑っとった。
せやけど俺は、彼んことが気になっとってすれ違えるんを毎日楽しみにしとったし、できる限り大きな声出して、目立とうとした。
学校の出し物で海へ行った時も、おんなじバスでえらいはしゃいで、俺はたっちゃんと漫才してんけど、ウケとるかずっと彼のこと気にしとったくらいやった。
せやけど接点はいっかな持てんかった。
そら話さんで当たり前やねんけど、工藤くんには何か勇気が出やんで、例えば俺は、男子は大抵名前か呼び捨てやねんけど、工藤くんのことは工藤くんやった。うまいこと言えんねけど俺の気持ちはそんな感じ。
六年になってようやっと同じクラスになれてんけど、俺は全然距離を詰めれんまま、こんにちを迎えとる。同じ班になって、一緒に本読みしたことさえあるんにこの体たらく、まさにありえんことやった。
このままやったら、何の爪痕も残せんまま、俺ら会えんくなるで。
俺は、祭りのぼんぼりに伸びた俺の、影を見ながら思う。
工藤くんは、私立の中学に行くらしかって、俺は言うと、たっちゃんらと公立の中学にスライドされることが決定しとった。
今から私立へ行く余裕も頭もない俺は、一度だけ休み時間に単語帳読んどる工藤くんに、
「よう頑張るなあ」
って声かけてんけど、目を伏せたまま、単語帳を少し掲げられただけやった。
どうもせえへん。何もなれへん。
たっちゃんが、俺の頭にボール当てて、「サッカーしよ」言うて、もうそっち行ったけどなんや切なかった。
俺らもうずっとこのままやろか。
「アホが騒いどる言いたげやな。そろいもそろって青白い顔しやがってうざいのう」
たっちゃんが、ふんと向かいの男子どもに鼻を鳴らす。実際にあいつらは、俺らを顎でさして、嫌味っぽくクスクスと笑いを仕向けて来ていた。
「行こやリツ。焼きそば食いたいわ」
「暑いて、ひっつくなや」
ヘッドロックかます勢いで肩組んでくるたっちゃんに笑いながら、俺は、じっと工藤くんを見とった。
そこで、大人たちの静止が入った。下がって、下がって。
ざあ、と人が端に詰める。
「なんや、間ぁ悪い」
たっちゃんが唇を尖らせた。俺らは押されながら道の端っこの、店のシャッターに背を預けた。汗に濡れた肌に金属は冷たて気持ちよかった。
しばらくして、囃子の音が聞こえてきた。
金色のだんじりが、赤の灯に下から照らされて、やってきた。たっちゃんは文句言うてたわりに口開けてそれを見てた。
あ。俺も口を開けた。
工藤くんらが待たずして、道沿いに歩き出してった。丁度姿がだんじりに重なってしまう。これが過ぎるころには見えんくなってまうやろう。
「工藤くん」
俺は咄嗟に、叫んどった。
「また学校でなあ」
工藤くんの周りの男子どもが、俺を見て苦笑する。せやけど俺はじっと彼を見てた。
工藤くんは、一度だけ、こちらを見た。それから前を向いて、行ってしもた。
俺は泣きたいような、ようわからん気持ちで、それを見送った。
囃子の音が、遠くなっていった。
《完》
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