あの日にまだ縋ってる15
何とか授業を終えて、俺は帰り支度をした。カバンを下げて、テキストとプリントを先生に見せに、職員室に向かった。
ざわざわ、生徒たちが、部活とか、放課後とか……色んな顔をして歩いてく。もうすぐテストがあるから、そんな独特の緊張が職員室に満ちてきていた。ほんの少し緊張しながら、俺は息を詰めて、先生のところへ向かった。
「ああ、そこへ開いてくれ」
担任の先生は、質問に来たっぽい生徒と話してた。俺は、言われた通り、プリントとテキストを開いて見せた。先生はポンとハンコをおすと、「ん」と頷いた。そして、また生徒と話し出す。
「ありがとうございます」
「先生、大変ねぇ」
他のクラスの受け持ちの先生たちが、ささやく。俺は、
「失礼しました」
と、職員室から出た。扉を閉める前に、職員室を見渡す。生徒たちが真剣に、先生に質問してた。
みんな、一生懸命だ。
俺も、頑張らなくちゃ……。
肩身の狭い気持ちで、扉を閉める。顔を上げて、はっと目を見開いた。
――瀧。隣に、
瀧も、俺に気づいたみたいだった。ぴたりと足が止まる。
「ねえ、瀧くん……」
佐保ちゃんも、俺に気づいたみたいだった。言葉を止める。大きな目を見開かれて、きっと、つり上がった。さっと瀧の傍に身を寄せて、強い目で睨んでくる。
俺は、汗がにじんでいた。体が冷たくなって、震えてくる。
何で、また。こんなことくらいで……。カバンをぎゅっと握りしめた。ふるえる足を叱って、脇を通り抜けようとした。
「――いいご身分ですね」
すれ違いざま、佐保ちゃんの冷たい声が、耳の奥に刺さった。ひ、と口を抑えた。
息がおかしくなるのを堪えて、俺は必死に駆けた。
「げほっ、げほ……」
何とか人気のない廊下まで来て、俺はへたり込んだ。床に膝をついてうずくまる。ぐらぐら、頭が揺れてた。頭の中が、真っ黒になったり、真っ白になったり、おかしい。気持ちが悪くて、のどが涸れたみたいに苦い。
ひゅ、と息をゆっくり吐き出した。体中、汗でぐっしょり濡れている。
なんで、これくらいで。こんなこと、たいしたことじゃないのに。
ずっと、今まであったことなのに。
頓服を取り出す手が震えた。ぴんと指で弾いてしまい、遠くに飛んでいく。それだけで泣きたい気持ちになる。
落ち着け、大丈夫だから。
なんとかもう一錠取り出すけど、のどの内側が、ひっくり返りそうで、飲めそうになかった。今、口に何もいれられない。
指先を噛んで、痛みでやり過ごす。酸っぱい味がこみあげてきて、目を閉じた。
「うう……」
情けない。何してるんだろう。
たいしたことじゃないじゃんか。何も言われてない。大丈夫だから。
手を抑えて、ぐっと堪える。吐いちゃだめだ。涙がぼろぼろこぼれた。ぎゅっと身を抱いて、必死に波をやり過ごす。もう床に倒れ込みたい。でも、そんなの駄目だ。
落ち着いて……。汗でびしょびしょの指先ごと、何とか薬を前歯で噛んだ。粉々になった薬を、口の中に溶かす。けほ、とえづいた。
背中が何度も跳ねる。呼吸が変だ。紙袋……。
紙袋を口に当てて、俺は必死に息をしてた。