あの日にまだ縋ってる13


 それから、朝が来た。
 ……また、瀧と歩いてる。
 俺は、少し前を行く、瀧の背を見つめた。それから、手に視線を落とす。
 今日は、手をつないでない。
 そこまで考えて、首を振った。なに、馬鹿なこと考えてるんだろう。何、浮かれたこと考えてるんだろう。すでに、馬鹿になってるんだ。期待したら、駄目だって、何度も言い聞かせてるのに。
 俺はぎゅっと自分の手を握り合わせた。唇を噛んで、顔を伏せようとしたとき、瀧が振り返った。
 俺は、息を呑む。
 瀧が足を止める。俺も、必然的に止まった。慌てて目をそらそうとして、失敗する。湖面みたいな目が、ずっと俺を見つめてる。
 瀧の手が、俺に向かって伸びた。

「行こう」

 胸あたりでわだかまってた手首をとられ、そっと引かれる。とっさに引くと、瀧の力が、少し強くなった。
 痛くないくらい――でも、泣きたいくらいの強さで。
 俺は引かれた手を下ろした。瀧はそっと、たしかに俺の手を握り直した。冷えた手に、瀧の熱が重なる。
 手を引かれて、俺は歩いてた。日差しが、さあと俺たちにさし出した。
 瀧の輪郭が、光に透ける。それに、胸がぎゅっと切なくなった。

「ここまででいい」

 通学路、人が多くなってきたところで、また俺は手を離した。瀧は、俺を見返した。俺は、言葉を失ったみたいに、声がでなかった。
 瀧も、何も言わない。
 俺は、急いで歩き出した。挨拶の声とか、笑い合う声が、あちこちで聞こえる。アスファルトが、明るく照らされてる。俺は、目をぎゅっと瞑った。また、泣きそうになってる自分が嫌だ。
 馬鹿だ。
 どうして、優しくしてくれるんだって。そんなことさえ、聞けないくせに。
 足に、力を込めた。
 はやく、離れないと。なにも、言えることなんてないんだから。

 ――踏み出そうとした足が、止まった。


《完》
 
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