あの日にまだ縋ってる12


 昼休みになって、俺は体を伸ばしてた。胸元に手を当てて、息をつく。
 今日は、調子いいみたいだ。
 ふっと蘇った手の熱に、首を振った。
 人の気配がして、扉を見る。

「樟くん」
「先輩」

 俺は目を見開いた。どうしてここに。立ち上がると、先輩は手で制した。

「すまない」

 と項に手をやる。

「星くんに、伝言を頼まれてな」
「星に」
「部活のミーティングが入ったそうだ」
「そ、そうなんですか」

 なんだか申し訳なくて、おろおろしてしまう。

「ありがとうございます。えっと、教えてもらって……」
「いや。ちょうど、俺も君を探してたから」

 そう言って、先輩は教室に入ってきた。
 手に持った袋を、そっと掲げた。

「お昼でも、どうかと思って」

 見上げると、先輩は「いや」と早口になった。

「美味しそうなパンを見つけたんだ」

 そう言って、俺に渡してくれた。

「先輩」
「いや、君の体調が先だった。その……」

 先輩はなんだか慌てていた。俺は、ちょっとあっけにとられてしまう。手の中のパンは、まだ温かい。

「先輩、これ……」
「ああ、大丈夫だ。細心の注意を払った」

 きびきびした言葉に、思わず、笑ってしまった。

「ありがとうございます」

 先輩は目を見開いて、笑う。

「俺、飲み物買ってきます」

 先輩が固まったので、首をかしげた。じっと見上げてると、「わかった」と頷いた。

「じゃあ、一緒に行こう」

 ……逆に、手間をかけちゃってるような。
 不安になったけど、先輩がずっと笑顔でいてくれるから。俺は、カバンを取って、扉に向かったのだった――。


 《完》
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