あの日にまだ縋ってる11
皆から、見えなくなったところで、俺はしゃがみ込んだ。張っていた気が抜けた。しゃがみ込んで、息を整える。
タクシーを呼ぶしか、ないのかな。オメガ専用のタクシーは高い。けど、これ以上迷惑かけられない。呼び出して、膝に顔をうずめて、息をついた。
母さんのお金なのに。無駄遣いばかりだ。
情けない。何のためにきたんだろう。いつになったら、ちゃんと出来るんだろう。朝は、具合が良かったのに。
そこまで考えて、ひゅっと息が戻った。
やばい。止めようとするのに、頬に触れた熱が、つらそうな、湖面みたいな目が、焼きつくみたいによみがえった――強張った手。
やめて。
がたがた体が震えだした。泣き声が、息に混じった。
「――樟くん?」
声に、顔を上げた。
「先輩……」
「大丈夫か。こんなところで、どうしたんだ」
先輩が膝をついて、俺を見下ろした。日を背負ってて、顔ははっきり見えない。俺は顔を拭って頷いた。カバンから、紙袋を取り出す。
わざとらしいし、すごく情けなかったけど、なんとかしなくちゃいけない。
紙袋の中で息をしてると、
背中に、そっと手が添えられる。
「大丈夫だ」
温かい声が、降ってきた。
「大丈夫」
涙がこぼれた。先輩は、ずっと俺について、背を優しく、叩いてくれた。
タクシーがやってきた。先輩は、俺のカバンを持って、そっと支えて、車に乗せてくれた。
「先輩」
「気をつけて」
先輩は、やわらかく、微笑んだ。俺は、頷く。先輩は俺に、一枚のメモを渡した。
「俺のIDだ。無事についたか、教えてほしい」
もちろん、つらかったら、無理しなくていい。
そう言って俺の手に握らせた。俺はそっと見つめる。
「お大事に。気をつけてな」
そう言って、扉がしまった――。
《完》
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