あの日にまだ縋ってる11


 午後も、俺はちゃんと授業に出られていた。ご飯を食べた後なのに、めまいもしない。

「じゃあ……次は……」

 先生の授業を聞きながら、俺は、せっせとノートを取っていた。何でも、できることはやりたかった。
 窓から白い光が差し込んで、眩しさに目をつむる。

「――くぬぎ!」
「は、はい」
「やっと起きたか? ちゃんと集中しなさい」

 先生が顔を逸らして、「次」と言った。ため息や笑い声が聞こえる。皆の目や口が、いっぱい見える。
 俺は、ペンを握りしめた。ノートが目にちかちかする。
 あ、と思ったときにはやばかった。なんだか、胸がおかしい。落ち着いて。喉元を押さえて、ゆっくり息を吸い込んだ。
 手が震える。

「っせぇな」

 隣の男子の舌打ちが聞こえた。一気に項が冷たくなる。俺はピルケースを取り出して、頓服を口に含んだ。

「じゃあ、全員立て。二人一組で解けたものから座って良し」
「じゃあ俺座れねえじゃん」
「災難だな」

 隣の男子が、友達とささやきあうのも遠い。
 手が冷たくなった。どうしよう。立てない。また、舌打ちが聞こえた。

「先生。俺のペアがやる気ないです」
「樟、立ちなさい!」

 俺は立ち上がれなかった。今、持ちこたえないとやばい。机にもたれて、必死に息を整えてた。

「理央」
「星、動くんじゃない! 樟、心配しなくても、お前はノーカウントだ。立ちなさい」
「えー」
「ずるっ」

 あちこちから不満の声が聞こえる。

「騒ぐんじゃない! 樟、早くしなさい」

 もう駄目だ。俺は、なんとか、腕を突っ張って立ち上がろうとした。皆がすごく怒ってるのがわかる。

「早く立てよ、カス」

 冷や汗が、首から伝ってた。気持ち悪い。口元を抑えて、なんとか立ち上がった。視界が点滅してる。体中、脈打ってた。涙がじわりと滲み出す。息がおかしくなる。

「先生。この人、ヒートじゃないっすか? ずっとハアハアしてるし」

 男子が、大きな声で言った。俺は真っ赤になる。

「え、」
「やだー!」

 口々に声が上がる。下敷きで、顔を覆って外に出てく子もいる。

「戻りなさい! 樟、はやく救護室に行きなさい!」

 俺は、居た堪れなくて、逆のドアに向かった。恥ずかしくて仕方なかった。皆、さっと机を引いた。

「理央!」

 星が駆け寄ってきて、俺を支えた。

「星、近寄ったらやばいって」
「ヒート移すなよー」
「理央は具合が悪いんだよ! そんなこともわかんねえのか」

 星が、隠すみたいに、上頭に上着をかけてくれた。

「大丈夫だ。行こう理央」

 そう言って、扉に連れてってくれる。

「男のくせに気持ち悪ぃな」
「真面目にしないなら、迷惑かけにくんな」

 ――ごめんなさいさえ、言葉にできなかった。


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