友達の幼馴染への感情がヤバい(希結×那智)
「おい、希結」
「何ー?」
週明け。
俺と大は、パンを食べる希結に近づいた。
「お前……擬態はよくないぞ」
「なんの?」
希結が、新しくパンの袋を開けた。俺は、机の空袋の山を避け、希結に詰め寄った。
「那智さんに……」
「ごほっ!」
希結がむせこんだ。俺は、慌てて背を叩いた。
「だ、大丈夫か!」
「落ち着け」
大が、希結に茶を差し出す。希結はあおって、口元を拭った。
「えっ……ちょ、何?」
「いや、その、だから。擬態はよくないぞって……」
俺は言葉を探り、重ねた。希結は視線を泳がせた。
「な、何のことだか……」
「いや、お前」
俺は、黒のチョーカーに目をやった。
「もう言うけど。那智さんの前で、オメガのフリしてるだろ」
希結の顔がさっと赤らんだ。
「はぁ!?してないし」
「いや、だって……」
「ていうか何!? お前ら那智くんと会ったわけ!?」
希結が立ち上がって怒鳴った。肌にびりびりきて、俺は飛び退った。大が俺を背に庇い、両手を上げた。
「偶然だよ。本屋で会っただけ」
「そ、そうそう! 那智さん、お前のこと話すと嬉しそうにしてたぞっ」
「えっ」
希結の顔が明るくなった。目が続きを促してた。
「で、どうなんだ」
「那智さんについて聞きたかったら答えよ」
希結を見つめた。希結の顔が、渋くなった。
「別に」
唇を尖らせ、そっぽを向いた。
「わざとじゃないし。那智くんが誤解してるから、流れっていうか」
「えっ、そうなん?」
「うん。子供の頃に勘違いされてから」
「へえ」
「いや。そこはちゃんと否定しろよ。お前はする奴だろ」
「あ、そうか」
希結を見た。希結の顔はいっそう苦かった。
「だって、那智くんの夢を覚ますわけにはいかないし……」
「じゃあ、那智さんのために抱かれてやる気か?」
大の追及に、俺も目を剥いた。けど、希結のほうが速かった。
「するわけないだろ! 気持ち悪ぃな!」
地を這うような怒声が、俺の体を突き抜けた。板みたいになった俺を、大が庇った。
「だったら言っとけよ。傷浅いうちに」
大の声は太く、落ち着いていた。大の後ろから、俺も援護する。
「そ、そうだぜ! 先に言っとかないと悲劇が生まれるぞ!」
「それは……」
希結が口ごもった。視線を流し、項に手をやった。
耳の奥で、ツーって音が鳴っていた。
希結は小さく舌打ちして、肩の力を抜いた。
「やだ」
「えっ」
「オメガってことにしといたほうが都合いいから」
頬杖をついて、窓の外を眺め出した。
「でもお前、女扱いされるの嫌いじゃん」
希結が目を眇める。窓の向こうで、鳥が飛んでいた。
「ムカつくけど。得るものの方が大きいから」
俺は首を傾げた。大が「やっぱりな」と、ため息をついた。
「希結。よくないぞ騙し討ちは」
「え?」
「ほっとけよ」
希結の声がざらついた。
「そんなチョーカーまで買ってよ」
「うるさい!」
空気が痺れ、俺はこめかみを押さえた。
「希結」
希結は体ごと、俺たちに背を向けていた。大は続けた。
「そんな遠回りしないで、ちゃんと口説けよ。あの人、お前のこと好きじゃん」
「そ、そうだよ」
「……そうでも、離れちゃうだろ」
希結の白い背が、こわばった。椅子に肘をついてもたれた。
「俺たち子どもだし。那智くんは自分のことアルファと思ってるし、オメガってわかったら戸惑って番になるのごねるかもしれない」
声が床を這う。希結の目は、空をじっと睨んでた。また、鳥が飛びたった。
「そんなの困るんだよ。わかってない内に、確実に仕留めないと」
低い声からは、色が消えてた。大の背が遠く見えた。
「フツーに告白しろよ」
「もうしてる。お前らは那智くんの鈍さを知らないから、そんなまっとうな事が言えるの」
希結が親指の腹を噛んだ。指先が白くなった。
「好きって言ったって、俺ほどじゃないよ。那智くんはふわっとしてるから。……誰でも好きだから……」
ぶつりと音がたった。
「許さないそんなの。絶対逃さないようにしなきゃいけないんだ」
赤く染まった唇が、動いた。瞳孔の開いた目に、俺たちが映った。
「絶対邪魔すんなよ。お前らでも許さないから」
俺は膝から力が抜けた。大が、俺の背を支えた。汗が吹き出て、俺はむせこんだ。
「まあ、お前の好きにしたらいいけど」
俺に肩を貸し、大は続けた。
「那智さんのためっつーか、お前のダチとして、俺ら言ってるからな」
そう言って、その場を後にした。
希結は、何も言わなかった。