あの日にまだ縋ってる9
食事が終わって、俺たちは、店に併設されたギャラリーに寄った。母さんたちは漢方を紹介してもらってた。理央は、絵葉書をじっと見てる。額縁に入った、おもちゃみたいな絵。俺はそっと、理央の隣に立った。理央の肩がこわばったのがわかった。なんでもないふりをして、隣の置物を見る。こんなもの、買ってどうにかするものでもない。こういうものは、こういうところで見るは、贈ることに価値があるから。
理央は、そっと他のを見に行こうとした。何気ないふうを装った足取りはそぞろで、俺から離れたいんだってわかった。
気づいたら、理央の手を掴んでた。理央は俺を見上げた。どこか呆然とした目が見開かれてる。
「瀧」
水面みたいに揺れて、涙が溢れた。慌てて拭う理央の目元に、俺はハンカチを取り出して当てた。理央の嗚咽が、ひどくなった。俺は、理央を引き寄せた。理央のやわらかい、優しい熱が、肩口に伝わった。
必死に嗚咽を殺す理央の背を撫でて、「先に出てる」と母さんたちに告げた。理央の顔を隠すみたいに、そっと扉をくぐる。
「ぅ……っ」
扉を閉めると、理央は声を震わせて泣き出した。今まで堪えてた分、不安定で制御できないみたいだった。俺は跳ねるみたいにふるえる背を優しく、優しくあやしてあげた。
好きだ。
染みるみたいに、胸におりた。俺は目を閉じて、理央のかすかな泣き声を聞いた。理央の手が、俺の背にかすかに添えられた。たどたどしい、幼い仕草だった。俺に、払いのけられないか、怯えてる手。
たまらなくなって、俺は固く、かたく抱きしめてやる。
「大丈夫」
ずっとここにいる。
理央の喉が、ひっと高い音を立てた。理央が首を横に振る。俺はずっと、ずっと、理央を抱きしめてた。
悲しい仕草を、かき消すみたいに。
《完》
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