あの日にまだ縋ってる9
古民家を見上げる理央を、俺は見てた。落ち着いた雰囲気の店は予約制で、体に優しい薬膳料理を出す。オメガ御用達で、くせがないらしい。
案の定、「男の子には足りないんじゃないの」と気の利かないことを言うおばさんに、理央は慌てて首を振る。理央は明らかに安心してて、俺もちょっと気分がよかった。
「平気よ、瀧がここがいいって言ったんだもの」
何でそういうことを言うのか、まったくわからない。理央にわざとらしく目配せして、母さんが言った。理央がきょとんと俺を見てた。わかってない内に促すと、母さんたちもちょっとは学習したのか、大人しく店に入っていった。まだ不思議そうにしてる理央を、扉を開けて待つ。理央は戸惑って、俺を見上げた。黙ってると、おずおずと扉をくぐる。
「ありがと」
細い声が、こんなに嬉しかった。俺が扉を閉めるまで理央はそこに立ってた。……変わらない。こういうところは、ちっとも。
「おいしい」
出されたお茶を飲んで、理央の顔がやわらかく、ほころんだ。店主の挨拶も遠く、理央の頬に少し赤みが差すのを、俺はじっと見てた。理央と目が合う前に、そっと逸らした。理央は俺を見てたけど、またお茶を飲みだした。俺は、またそっと、理央を見つめてた。
「二人は、学校ではどうなの?」
料理をのんびり食べてたら、母さんが尋ねた。どうでもいいことを、掘り下げてくるなよ。俺は、またすごく嫌な気持ちになる。お腹の底が、鈍く冷えた。
「えっと……それぞれ、過ごしてて」
理央が、おかゆを食べる手を止めて、笑ってたどたどしく答えてた。気が塞がった。嘘つくなよ――そう言いたくて、でも、黙り込んだ。今は嘘じゃないから。
『瀧!』
理央がクラスにこなくなって、もうすぐひとつきになるんだ。
「まあ、学年も違うし、わざわざくっついていなくてもいいわね」
おばさんの言葉に、理央は頷いた。おばさんの言葉を受ける母さんの言葉にも、どことなく、慣れたものを感じる。「押しかけたらだめよ」と、おばさんに言われて、理央は「うん」と気まずそうに、小さくなっていた。「瀧が忙しくて時間もないものね」と母さんも言う。フォローなのか何なのか、わからない言葉に理央は一生懸命、笑ってた。
手に痺れが走るくらい、胸が痛くなった。何故だかわからない。ただ、理央の顔が泣きそうなのが、俺にはわかったから。
泣くなよ。俺たちは、一緒にいただろ。
そう、伝えたくて仕方なかった。