あの日にまだ縋ってる8
瀧とおばさんとは、駅前で待ち合わせをしていた。
「あら、
俺の服に、すぐ気づいたおばさんが、にこにこと俺の肩に手をおいた。母さんが「いいでしょう」と誇らしそうに笑ってる。俺はうなずきながら、おばさんの向こうにいる瀧を、どうしても見てしまう。
瀧はいつもどおり、でもいいお店にも入れるような綺麗で落ち着いた服を着てた。すっと伸びた背に、すごく似合ってて、日差しがきらきらしてた。通りすがる子が、皆瀧をきれいな目で見てる。
「よく似合ってるわ。瀧も、そう思うでしょう?」
俺はものすごくぎくっとした。思わず小さくなった背を「しゃんとしなさい」と母さんに叩かれる。でも、瀧にこういうのは絶対振っちゃ駄目なやつなんだ。瀧は向こうを見てた目を、少しだけ俺に移した。
「お、おばさん」
「いいんじゃない」
ひと言だけ、つぶやくみたいに言って、瀧は向こうを向いた。「あら」とおばさんが目を見開いて、それから笑う。嬉しそうに俺の肩を揺らした。
「はやく行かないの」
瀧は静かに促す。それに、母さんが「行きますとも」と笑って答えた。
「あまりからかうのもよくないわね」
「そうねえ、立ち話も何だし」
と、俺の肩を抱きながら、歩き出した。その手は、俺に「よかったね」って言ってた。俺は、ずっとうつむいてた。顔が、熱を出したみたいに火照ってる。泣きたい気持ちを、拳を握ることで、一生懸命、堪えてた。――何で? ずっと、褒めてくれたことなんてなかったのに。
酷いよ。何より、浮き立ってる自分が、いちばん酷かった。
「さ、行きましょう」
車に乗り込んで、出発した。おばさんが助手席で、母さんが運転席。必然的に、俺と瀧が後ろの席に並ぶ。けど、どうしていいかわからない。母さんとおばさんが楽しげに話すのを聞きながら、俺はうろうろ、窓の景色を見てた。酔いそうでやめる。目を閉じて、息をつく。大丈夫。
そっと、隣の瀧を窺う。瀧は、黙って座ってた。いつもみたいに、スマホを見てなかった。そういえば、さっきもだ。珍しいな……考えて、俺は目をそらした。頭の奥が軋むみたいに痛んだ。ゆっくり息をする。
何でもいいんだ。だって、もう関係ないんだから……。
「理央ちゃん? 平気」
「はい、全然、平気です」
ミラー越しに、おばさんに笑った。ちゃんとしなくちゃ。久しぶりの、お出かけなんだから。絶対に、体調崩して、台無しにしたくない。