あの日にまだ縋ってる7


 あれから、また体調を崩してしまった。救護室から出られなくて、早退して――それから、学校に行けていない。ほしたちからは心配のメッセージが届いた。

『大丈夫か? よく休めよ』
『待ってるからな』

 って、言葉が身にしみた。情けなくて、ありがたくて。きっとはやく治るんだ。そう誓って、お布団に入った。
 なのに。

「うっ……」

 口元を抑える。咄嗟にまくり上げた上着で、受け止めた。お腹には、今飲んでる漢方以外、なにも入ってなかったから、被害は少ない。
 洗濯しなくちゃ。起き上がって、また目眩がする。頭の中で、金物が音を立ててるみたいだ。
 涙がじわりと滲んでくる。どうして。せっかくよくなったのに……。
 俺は、むちゃくちゃなやられようだった。
 主治医の先生が言うには、想うアルファのフェロモンを吸っちゃって不安定になったんだって。

「瀧……」

 何とか体を整えようって、忘れようってするのに、瀧に掴まれた腕が、抱きしめられた体が、何度も瀧を思い出させた。

『この人、ずっと瀧くんにつきまとってたんだよ!』

 瀧は、俺のこと嫌だったんだ。そう思おうとするのに。

『返せ!』

 揺れた叫びも、何か訴えてくる目も、ずっと俺を自由にしてくれない。どうして、瀧。
 息がひゅっと戻った。喉元をおさえた指先が震えてくる。
 ポケットから頓服を取り出して、噛んで飲んだ。大丈夫。体が動揺してるだけ。死んだりしない……。不安を必死になだめる。
 あれから、息が上手く出来ない事が増えた。
 怖くて、授業中とかに起こったらどうしようって思う。また迷惑かける。

『またサボりかよ』
『授業受けないならくんな』

 ただでさえ、皆によく思われてないのに。ひゅっと大きな音が喉で鳴って、体が震えた。床にうずくまって、息を整える。
 大丈夫、大丈夫……。目を閉じて、必死に言い聞かせる。

『ゆっくり息して。大丈夫だから』

 瀧の声が蘇る。体を満たした、瀧のフェロモンも。それから、強引に呼吸を落ち着けられたことも。

「……!」

 涙がぼろっと溢れた。駄目だ。あちこちに置いた紙袋をどうにか取って、口に当てた。泣きながら、必死に瀧のことを頭から追いやる。
 出てって。瀧。お願いだから、俺から出てって。もう、忘れさせて。
 泣きながら、必死に呼吸を飲んでいた。


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