君に決めると決めたから


 あるところに、超絶遊び人の鬼がいました。千年の間に、付き合った男の数は星の数ほど。
 けど、泣かせることはしないし、彼と付き合ってきた男たちは皆幸せになります。
 そんな彼がとうとう、伴侶を決めるそうです……。

 *

 宴の席は、ひりついていた。挨拶にむかった鬼族の青年に、妖狐族の後継が反発を見せたのだ。
 鬼族の青年の名はけいといい、鬼族の長の血族であった。立派な美丈夫であるが、その目つきは優しい。

「まあ、妖狐族の若君。今宵は百年ぶりのあやかし総出の宴。仲良くしようではないか」
「上から物を。我らは鬼族に従ったいわれはない」
「また、手厳しいのう」

 はははと景は笑った。妖狐族の若君の後ろから、にゅっと大柄の少年が乗り出してくる。

「兄様、やっちゃおうか」
ほむら。大丈夫だから」
「だってむかつくし……俺の兄様に偉そうな口聞いてさ……」

 周囲に緊張が走る。それほどに少年――焔は好戦的な態度をとっていた。
 しかし、景は興味深げに目を見開く。黒の瞳が輝いた。

「なんと愛らしい。初めて見る顔だ」

 わくわくとした顔で、焔を見上げた。
 妖狐族の若君は、「な」と不快げに顔をしかめた。景は気にした様子もなく、

「先に若君から聞いたが、今一度、あなたの口から名前をうかがってもよいか」

 と尋ねた。
 ぴりついた空気が一転緩和される。いつもの景のクセが始まったな、という顔である。
 しかし焔は、はっと鼻で笑った。

「何あんた。俺とやりたいの?」

 周囲が息を呑む。
 景はきょとんと、首をかしげた。

「図星? 俺に相手にされると思ってんだ。ずうずうし……」

 焔が嘲笑した。長めの前髪から覗く目は、嗜虐的に歪められている。

「俺、あんたに全っ然その気にならないから」

 そう言って、共にいた妖狐族の若君――彼の兄様を後ろから抱きしめた。

「焔……」

 清楚な気風のある若君は、焔を見上げ、頬を染めた。
 そして、きっと前に向き直り、口を開く。

「焔になにかしようなどと思わぬことだ。もちろん、俺が守るがな」
「兄様」

 焔が、打って変わって若君に、無邪気な笑みを見せた。そして、眼の前の存在に、勝ち誇った笑みを浮かべた。

「ふむ」

 景はただ、思案げに目を動かしていた。
 不思議そうに首を傾げ、長い髪が、ふわりと花のように揺れる。
 焔と若君の口撃に、なんら腹を立てた様子もなく、ただ悲しげに眉を下げた。

「若君。焔殿の言葉に賛同するか」

 ただ一言そう尋ねた。

「だったらなんだ。焔を傷つけるものは許さない!」
「そうか」

 若君の言葉に、景はいっそう悲しげになったが、その目にたしなめるような、叱責の色をのせた。

「大事な弟君に、あんな悲しい言葉を吐かせるでない」
「――はぁ?」
「弟君は、自分の価値を色にばかり置いている。愛しておるなら、そんな思い違いさせるでない」

 妖狐族の若君は、唖然とした。何を言っているかわからない、という顔だった。
 焔もまた口を開いていたが、その顔には不可解だけでない羞恥があった。嘲ったものに、憐れまれるとは。
 そんな焔を見て、景はふっと笑う。手の中の扇子をぱらりと開いた。

「それはそれとして、焔どの。あなたは魅力的だ」
「な」
「あなたのことを知りたいゆえ、茶でもいかがかな?」

 にこ、と笑う目は、妖しく美しかった。焔が思わず気を取られたとき、一つの足音が凄まじい勢いで、迫ってきた。

「景様っ!」

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