君と叶える世界線


「そうだけど」
「やっぱ。さりげに行くから、引き止めとけよ」

 俺は曖昧に頷いた。


「いいけど、変なことすんなよな」
「するかよ! 馬鹿野郎」

 真っ赤になって、怒った。

「咲は見かけによらず、変態なんだよな」

 ぶつぶつ言われて、なんか刺さった。俺は膝の上に頬杖ついて、そっぽを向く。
 英里は、中学生の俺の妹に最近、夢中なんだ。「将来絶対、俺好みになるから」だって。

 悪かったな。お前好みに育たなくて。

 馬鹿みたいな悪態が、俺の胸の中にぶつかった。
 子供の時、毎年出かける海で出会った男の子。
 ひと目で好きになった。だから、「好きだ」って言われて、嬉しくて。「結婚して」って別れ際に言われて、俺は迷いなく頷いた。おそろいの、ペンダントを約束の証にしてさ。
 それから十年、離れてた。俺は、ずっと会えるのを楽しみに、頑張ってた。再会したとき、惚れ直してもらえるように。
 けど、十年後、同じ高校で再会して、わかったのは俺だけだった。

「誰?」

 ちょっと不審げに言われて、ペンダントを差し出した俺に、英里はそれをひったくった。

「これ……! 何でお前がこれ持ってんだよ」

 掴みかかられる勢いで、俺は驚いた。いつも英里は優しかったから。俺は慌てて「自分が咲だ」って言った。

「ふざけんな!」

 英里は信じてくれなかった。けど、俺が話すことを聞いて、何となくわかってしまったらしい。

「男だったのかよ! ふざけんなよ」

 叫ぶなり、がっくりと項垂れた。
 俺はぽかんとして、英里の背をさすろうとした。その手を払い除けられて、どなられた。

「ずいぶん楽しかったろうな」

 そう言って、睨まれた。ひどく無念そうに、怒りに満ちた目で。

 それから。
 今の関係になるまで、一年半かかった。
 本当に好きだったって言っても、信じてもらえなかった。だから、「言い出せなかったごめん」とお茶を濁すしかなかった。
 英里は優しいから、すごく怒ってたけど、俺の気持ちをくんで許してくれた。

 けど、俺は失恋も出来ないまま、ずっと英里のことを思い続けてる。

 これは、なにも英里だけの問題じゃない。俺の臆病さも原因だ。
 変態だって言われるのが、怖かったのもある。ワンチャン友達にさえなれなくなるって。
 だからおしきれなかった。
 言い訳するけど、英里がまさか、俺のこと女の子と思ってるとは、知らなかった。そしてそれが重要だったってことも。
「男だってわかってたら、好きにならなかった」って、言われて気づいたんだ。



2/3ページ
スキ