こじらせた恋の終止符の打ち方


「そろそろ落ち着こうと思う」

 十九回目の彼女との別れを受けに話して、攻めはこういった。

「どんなに好きでも、だいたいパターンが出来てる。ここが限界だと思う」

 それはわかるかもしれない。恋愛偏差値ゼロなのに、攻めの恋愛話を聞きすぎて、受けは「攻めの恋愛が始まり終わるパターン」を読めるようになってしまっていた。

「もう、俺もちゃんとしたい。こういうのは終わらせたい」

 そう言って黙り込んだ攻めに、受けは頷いた。
 つまり、結婚を視野にってことか。早いな。
 ずーっと攻めに片思いしてて一個も経験つめてない自分からすると、途方に暮れてしまう差だ。

「いいんじゃない」

 そう答えて、うどん食べて、その日はわかれた。
 次に話聞く時は、本当に覚悟しなきゃいけないのかって思いながら。
 それからしばらく、そういう話はなかった。初カノから次、次と途切れなかった攻めの恋愛遍歴がストップしている。

「受け、席こっち」
「おう」
「出席とってきてあげる。学生証貸して」
「ありがと」
「そこ段差気をつけて」

 前から甲斐甲斐しいけど、拍車がかかってる。席に座って待ってると、レジュメまでとってきてくれた。
 なんかお返ししなきゃとは思うのだが、すごい速さで隙を埋められるので暇がない。

「攻め、なんか困ってることある?」
「なんで?」
「いや、してもらいっぱなしだから」

 受けが聞くと、攻めは「そうかな」と言う。自覚無しか。

「彼女いなくて寂しいのか?」

 あんまり聞きたくないことだけど、攻めはすごい尽くすタイプだから、欲求がほとばしっているのかもしれない。そこで「じゃあ、俺と」なんてふざけても言えないくらい、自分も初恋こじらせてた。

「さみしくないよ。今一番たのしい」
「はあ……?」

 じっと受けを見る攻め。その目はきらきらしてる。

「やっぱりさ。色々通らないと見えないこともあるよね」
「はあ、そうですか」

 嫌味か。確かに俺は、なんも経験してませんけども。ちょっとすねたい気持ちになって、「そうかもね」と言った。

「じゃあ、俺もそろそろ経験しようかな」
「へえ。いいじゃん」

 攻めが乗り気な感じで身を乗り出した。枯れてる友人の恋の面倒とか見たい時期だな。悲しい気持ちで、受けは「お前の余りある人脈を貸してくれ」と言った。

「彼女ほしい。他にもそういう友達呼んで遊ぼうぜ」

 言いながら吐きそうに受けの気持ちは凹んだ。うお、こんなになっても俺はこいつが好きなんだな。失恋宣言は身を切られるみたいに痛かった。
 反応がない。顔をあげると、攻めは固まっていた。ぎこちなく形の良い口もとを動かす。

「受け、彼女ほしいの?」

 ほしくはないけど。でも、この恋が忘れられる恋はしたい。きっと俺には経験がないから、ずっとお前にこだわってしまうんだ。出会いが増えたら、きっと薄まってくれる。
 なのに、どうしても「うん」とは言えないで、黙ってた。
 そのまま講義が始まってしまった。攻めの存在を異様に感じてしまうのは、自分が意識してるからなのか、攻めがなんか圧を出してるのか。たぶん前者だろうな、と気もそぞろに先生の言葉を書きつけていた。

「やっぱりさっきのなしで」

 講義のあと、受けは攻めにそう言った。
 言ってから何だけど、やっぱり気が重い。このままじゃ泥舟だってわかってるのに、攻めへの気持ちを抱えたまま沈んだほうがましって青臭い気持ちがある。
 そんな状態で、だれとも向き合えそうもなかった。
 馬鹿だな、俺このままだと泣きながらこいつの結婚式のスピーチする羽目になるぞ。

「じゃ、俺次休講だから」

 そう言って学食の方へ足を向けた。いつもは講義がわかれようが、だらだらくっついて飯を食べるけど、今攻めと飯を食べても味がしないし気まずい。なら、一人で落ち込みながら食いたい。
 そう思ってたらたら歩いてると、棒みたいに立ってる攻めに、綺麗な女の子がぱっと駆け寄ってる。
 攻めが決める人は、あの中の誰だろう。また違う誰かかも。


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