「もっと可愛い子と付き合いたい」と恋人に嘆かれている【4】


 遠野の部屋は、最上階の個室だ。生徒会は名家出身の生徒が多く、また仕事量も多いので、特別に鍵付きの部屋を設けられているのだ。
 そういった面でも、満未が出入りするのは、心配なのだが……フロアの入り口で、インターホンを鳴らして待つ。
 返事はない。いないのだろうか。首を傾げていると、廊下の向こうで、にぎやかな声が、聞こえてきた。
 ぱっと振り返ると、満未と遠野だった。リンゴの妖精さんたちと一緒に、楽しげにこちらへ来る。とっさに、非常階段の方へ身を隠してしまう。なぜかわからない。体が勝手に動いていた。心臓の音がうるさい。

「生徒会のフロアって初めてですっ」
「まあ、中には入れられねえけどな」
「じゅうぶん嬉しいです~!」
「待っててね、すぐ荷物取ってくるから」

 満未のやわらかい声が聞こえた。昨日の声なんて、なかったみたいな、優しい声。ダメだ、そう思うのに、そっと窺ってしまった。
 満未が、妖精さんの髪を、そっと撫でた。真っ赤な頬を大切そうにふれる。

「可愛いなあ。リンゴみたい」
「ええっ」
「ほんと、全然違うな……」

 いっそう真っ赤になった頬を切なげに触れている。スローモーションみたいに綺麗だった。

「おい、浮気してないで、早く取ってこい」

 遠野の声に、時がまた動き出す。満未は、すっと妖精さんに背を向けた。

「浮気じゃないし」
「へーへー。もう別れたもんな」
「……まあね」

 遠野と一緒に、部屋に入っていく音が聞こえた。

「嘘、委員長と、久玉(くだま)さんって別れたの!?」
「やったじゃん、ここ絶対逃すなよ!」

 妖精さんたちが、手を握って、満未に撫でられた子を励ましている。脈ありだ、大丈夫だ、言葉が音になって、いっぱい相の頭に流れてきた。
 全然、整理が出来ない。
 俺と満未は、別れたのか。確かに、昨日、大嫌いと言われたが。もうそういうことだったのだろうか。
 わからない。

「お待たせー」
「じゃ、行こうぜ」

 満未と遠野が、戻ってきたらしい。リンゴの妖精さんたちと、連れだって満未が行く。

「満未!」

 相は、気づいたら飛び出していた。「げっ」と妖精さんたちが、口を押さえた。

「どういうことなんだ。さっきの会話は」
「おいおい、盗み聞きか? 委員長さん」

 遠野のからかいも遠い。みっともないだとか、考えていられなかった。相はぎゅっとお菓子の入った袋を握りしめた。

「答えてくれ。俺たちは別れたのか」
「それがなに? 不都合なんてないでしょ」

 満未が肩をすくめた。目を合わせてもくれない。

「仕事に支障出たら困るかなって思ってたけど、公平な委員長さんは、そういうのなさそうだし。もういいかなって」
「嘘だ!」

 相はとっさに叫んでいた。

「本当のことを言ってくれ。満未」
「はははっ!」

 遠野の爆笑が割ってはいる。腹を抱えて笑っても様になるそれに、妖精さんたちもほっと笑った。

「よしとけよ、郷田原。愁嘆場は可愛い子の特権だぜ」

 お前がやると、脅しにしか見えねえ。

 相は固まった。恥ずかしくて、何も言えなくなってしまう。

「本当だよ」

 静かな声が、笑いをかいくぐる。満未の声だ。認識して、頭が真っ白になる。

「もう、お前にはうんざり。顔見たくない」

 そう言って、背を向けた。

「行こ」

 そう言って、妖精さんたちを促す。遠野が笑ってついて行った。相は呆然と、その背を見送った。満未は最後まで、目も合わせてくれなかった。



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