「もっと可愛い子と付き合いたい」と恋人に嘆かれている【3】


「それでね、相さん」
「うん」
「俺、最近友達の顔も、見れるように――あっ、ここ教えてください」

 日夏に問題を示されて、相は「ここはな」と教える。ここは日夏の部屋。相は日夏と一緒に、勉強に励んでいた。

「なるほど――って、教科書のまんまじゃないっすか! もうちょっとかみ砕いてください」
「えっと、そうだな……」

 日夏の言葉に、一生懸命言葉を探す。しどろもどろになりながら、教えるのを、日夏は嬉しそうに聞いていた。

「でも、なんかいいかなって思えるんすよ」
「ん?」
「今まで、周りのこと、敵みたいに思ってたから、しんどかったけど。もういいかなって」
「日夏君」
「俺の父さんに、本当の子供がいて……嘘つきだったって知ってから。皆、本当の子……兄さんの味方するし……俺だってどうしようもないのにって」

 日夏は、頭をがしがしとかいた。言葉を探しながら、話している。

「だから、本音隠す人、嫌いで。和希さんのこと嫌だった。そしたら……もっと、怖いものを知って、俺の信じてたもの、全部壊れた」

 相はひたすら黙って聞いた。相づちが、もっとちゃんと打てるようになりたかった。

「人と関わるの、全部怖くなった。だってなにも信じられなくて」
「日夏君」

 日夏は気丈にも、笑っていた。相は、ただ日夏を見つめた。日夏は相の視線を、じっと受け止めた。

「相さんが、すごくいい人に見えたんだけど。でもやっぱ嘘かもしれないって。そしたら、おじさん……理事長室に呼ばれてて」

 相は頷いた。

「盗み聞きしたよ。兄さんの悪口、聞いた時みたいに。相さんの本心を知ってやるって。けど、」

 日夏が、ぎゅって立て膝を抱えた。痛みを耐えるみたいに沈み込んで、それからぱっと顔を上げる。

「相さん、怒ってくれたよな。理事長のやってることは、俺に失礼だって。俺と、ちゃんと関係を作りたい。友達だからって」

 日夏は笑う。

「すごく嬉しかった。どんな好きより……はじめて、本当に選ばれたって気がしたんだ。それで、自分が……どんだけ卑怯なこと、してるかわかったんだ」
「それは」
「今までもそうだったんだって。俺、ずっとそうしてきたから。そしたら、恥ずかしくって……相さんに、申し訳なくてっ」

 日夏の目から、涙がこぼれる。頬に伝う涙を、何度も拭った。相は、ハンカチをそっと日夏の手に握らせてやる。日夏は笑ってごしごし拭った。

「はじめて、反省できた。そしたら、ホッとしたんだ。不思議だけど」
「そうか」

 相は、ホッとした。日夏はずっと泣いている。けど、彼の中でずっと苦しんでいた何かが、解放に向かうのを、感じていた。日夏は「へへ」と笑った。

「それにっ。どれだけ他の人に嫌われても、いいかなって」
「日夏君」
「まだ無理だけど、和希さんや、……兄さんのことも、好きにはなれなくても、許せるようになれるかもって……今なら思うよ」


 俺には、相さんがいるから。
 そう言って、日夏はにこっと笑った。ひだまりみたいに暖かな笑顔だった。

「よくがんばったな」
「へへへ」


 頭をなでると、日夏は嬉しそうに笑った。笑って、にこにこと身を寄せてきた。相も、あたたかい気持ちになる。
 日夏は、顔を上げて、ちょっと面食らった顔をした。

「相さんって笑った顔、雰囲気変わる」
「ん?」
「なんつーか……モロ、相さんって感じ」
「そうか?」

 よくわからない。
 相は首を傾げる。日夏はきらきらと顔を輝かせ、相の頬を包んできた。

「いつもそうしてたらいいのにー」
「俺は風紀の長だから、威厳のある態度を……」
「ぶはっ、威厳て! 今の方が、ずっといいっすよ」

 頬をぐりぐりなで回されて、相は困った。日夏が元気になって嬉しいが、こんな風にされたことはなくて、どう対応していいかわからない。

「顔怖いのに、笑うとかわいい風紀委員長、親しみあっていいじゃないっすか。そこ推していきましょうよ」

 か、かわいい?
 かあと頬が火照った。

「か、からかうのはよしなさい」
「からかってないのにー」

 にこにこ笑って頬をつつかれて、そっぽを向いた。顔が、というか首まで熱っぽい。そうだ、この気持ちは……恥ずかしい。それだ。
 膝に顔を埋めて隠していると、ばんと大きな音が鳴った。

「えっ」

 人の部屋に、なんだ。とっさに日夏をかばって、訪問者を見て――目を見開く

「満未……」

 満未が、すごく冷たい顔で、立っていた。

 
《続く》

 
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