「もっと可愛い子と付き合いたい」と恋人に嘆かれている【3】
しん、と空気が詰まった。
「――は」
「理事長先生の言うことを聞くことはできません」
理事長の目が見開かれる。それから、わなわなとふるえだした。しかしすぐに余裕を見せ、ゆったりと座り直してみせる。
「そうか。生徒会と戦う度胸がない、そういうことだね。なら、残念だが君は」
「俺は長の器ではありません」
相ははっきりと答えた。
「ただ、皆に支えられ、長の座につかせてもらっている身です。俺より優秀で、リーダーシップのあるものは、いくらでもいます」
理事長の顔を見つめる。相の目は、どこまでもまっすぐだった。
「そんな俺が出来ることは一つです。俺の意思で、人に接することです」
満未の顔が思い浮かぶ。そして、泣いていた瀧見の顔も。
「俺が理事長先生の言葉を受けたと聞いて、傷つくのは瀧見君です」
理事長の目が、かすかにこわばる。
「彼は今、人におびえています。決定打になるかもしれません。俺は、そんなことは絶対にしたくありません」
膝の上で、ぐっと拳を握った。強い目で、理事長を見返す。
「俺は俺の意思で、瀧見君と関係を持ちたいのです。間地とのことも、彼の口から聞きたい。それが、彼への友情だと、俺は思っています。だから、この話は、聞かなかったことにします」
そう言って、相は立ち上がった。
失礼します。深く頭を下げる。そうして、理事長室を後にしようとした。
「待ちなさい!」
理事長が、相を止めた。振り返ると、理事長は、相をただ見ていた。
「すまなかった。この話は、なかったことにしてくれ」
理事長の顔には、見覚えがあった。大切な人を心配する顔だ。相は笑って、頭を下げた。
「失礼しました」
理事長室の重い扉を閉じて、ふうと息をついた。腰が抜けて、へたり込んだ。どっと、汗が吹き出てくる。
「怖かった……」
かなり。上に立つ人間のかけてくるプレッシャーとは、ああも重いのか。最後に、人間的な顔を見せてくれたのが、せめてもの救いだ。
やはり俺は、上に立つ器ではないな。
けれど、だからこそがんばるのだ。心臓の音が、耳まで響いている。もう少し落ち着いたら、風紀室に戻ろう。
顔を覆って、ふうと息をついていると、気配がした。
「瀧見君」
瀧見が、じっと立っていた。拳を握りしめ、涙をぼろぼろこぼしている。
「どうしたんだ」
立ち上がって、瀧見の肩に、そっと手を添えてやる。瀧見は、なにも言わず、ずっと泣いていた。相は、弱ってしまって、おろおろ、手をさまよわせた。
「どうした。どこかつらいのか」
相の言葉に、瀧見は、「うっ」と嗚咽を漏らし、弾丸みたいに飛び込んできた。それから、わんわんと泣き出した。
「ごめんなさい……!」
ぎゅっとしがみつかれる。背中にすがる手は、必死にふるえていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!」
瀧見は、張り裂けんばかりの声で、ずっと泣いていた。相は、なにも出来なかった。ただ、ひたすら、瀧見の背を、さすってやった。