「もっと可愛い子と付き合いたい」と恋人に嘆かれている【3】


「よく来てくれたね」
「いえ、お話とは何でしょう」

 理事長室のソファに座り、相(あい)は理事長と向き合っていた。理事長は、上品なスーツに身を包んで、長い足をくんでいた。髪を後ろに撫でつけたさまは、端正な顔によく似合う。
 俺とは大違いだな。当然のこととはいえ、相は髪型だけ同じの己を呪った。

「瀧見日夏(たきみひなつ)くんのことで」
「はい」

 相はぴっと顔を風紀委員長のものへと変えた。なるほど、さすが明嵐(めいらん)の理事長ともあろう方は、転校生のことまで把握していらっしゃるのか……尊敬のこもった目で見つめると、理事長はふっと笑った。

「彼の苦境は、風紀の長である君ならばわかるだろう」

 それについてはふがいないばかりだった。

「私の不徳のいたすところで、つい最近まで、気づくことが出来ませんでした」

 申し訳ございません。と頭を深々と下げると、理事長は「いい」と手で制した。

「それについては仕方がないよ。瀧見君は、ずっと間地(まじ)と懇意にしていたからね」
「あ」

 言われてみれば、そうだった。瀧見と間地が一緒にいるのを、よく見かけたような。己の鈍さに驚く。

「傷ついた顔ばかり探すのが、本当にうわべばかりの偽善者って感じだよね」

 って、満未(みつみ)にもよく言われるというのに。相は恐縮する。

「しかし、今は一緒にいないようですが……」
「ああ。それは瀧見君から離れたそうなんだ。関わりたくないと」
「は」

 理事長はいらいらと足を組み直した。

「ひどくおびえた様子でね。おかしいとは思わないか。前日まで、瀧見君は間地のことを、親友とまで言っていたんだぞ」
「それは」

 たしかにそうだな。
 相は不思議になる。それと、理事長と瀧見との親密さにも。理事長は、ここまで教育熱心な方だとは、失礼ながら知らなかった。

「きっと間地になにかされた。もしくは、彼が懇意にしている皆見(みなみ)の差し金か……とにかく、ひなちゃ……瀧見君は今、生徒会の者たちの為に、苦境にいるんだ」
「は、」
「君にも、責任の一端はある。そうだろう、風紀委員長の郷田原(ごうだわら)君」

 たしかに、そうだ。

「申し訳ありません」

 深々と頭を下げた。そうだったのか。自分がのんびり構えていたから、瀧見があんなに苦しんでいたのか。しかし。

「あの、失礼ですが。間地は、理事長先生と親類と聞いています。彼は、いったいなんと言っているのですか」

 ぴりっと、理事長の顔に不快の色が走る。相はじっと見つめ返した。しばらく見つめ合う。

「なにも。『日夏が離れたいと。他にも友達ができたからって』と言ったさ」
「そうですか」
「おかしいと思うだろう?」

 正直なところ、判別がつかなかった。ただ、間地と皆見が……そのような不当な行いをするとは思えない。だが、瀧見の調子が悪いのも事実だ。

「君が、心ある風紀の長ならば。このことを調べ私に教えてほしい」

 相は目を見開いた。

「そして、瀧見君のことを、君の権限で守るんだ。そうすれば、君の今までの手落ちは水に流そう」

 いいね。
 理事長の声音は、ほぼ確認のようだった。息も出来ないような緊迫感が、理事長室に満ちていた。
 黙り込む相に、理事長はぐっと身を寄せた。

「出来ないのなら、君は長の器ではないと言うことになるな」

 相の顔がゆがんだ。それに、理事長は笑みを深めた。

「わかってくれたらいい。それでは――」
「お断りします」


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