「もっと可愛い子と付き合いたい」と恋人に嘆かれている【2】
「ええと。飲み物は……ほうじ茶は飲めるか?」
「あっはい」
「手際が悪くてすまない。そこに座って待っていてくれ」
瀧見を応対用のソファにうながす。相は手を洗って、来客用の湯飲みをとりだした。瀧見は、きょろきょろと風紀室を眺めていた。
「お待たせした」
「あっ。どうもです……」
ほうじ茶を手渡すと、瀧見はおずおずそれを飲み出した。その間も、じっと湯飲みから、風紀室へ視線が動いている。
「どうした?」
「いや……生徒会とぜんぜん違うなって」
「ああ」
相は、得心がいった。それはここに来た皆が持つ印象だ。
「風紀は、大所帯だからな。質実剛健を旨としている」
選抜を勝ち抜き、少数精鋭で学園の顔となる生徒会とは、まったく趣が違うのだ。
生徒会と同等の権限をもつと聞く風紀に来て、「期待はずれだった」と肩を落とす生徒も少なくない。しかし相にとっては、こちらのほうがずっと過ごしやすかった。向こうは華やかであることが責務だ。
「そうなんですか。それで、掃除も自分たちで……?」
「ああ、すまない」
瀧見の目が、壁にたてかけられた箒に向かってるのに気づき、相はあわてて立ち上がる。
「掃除は、きちんと当番でしている。これは出し忘れでも何でもなく、俺がさっき勝手にしていたことだ」
「えっ? ……えーと、」
「俺は
「ご、ごうだわら……」
瀧見がちょっと顔を隠してふるえていた。首を傾げていると、「すみません」と顔を上げた。
「すみません、ぴったりだったんで。委員長なのにそんなことするんすか」
「長であることは関係ない。仲間との場所を大切にしたいのだ」
「皆の目に付くところでやっていると、プレッシャーになる」と満未に怒られてから、陰で手入れしているのだ。ついでに、今日の失態を思い出し、頭を殴りたくなる。
「へー……やっぱ生徒会とは違うっすね」
「表は違うが、向いている方角は同じだ」
生徒会のトップの
満未の顔を、思い浮かべた。気の利かない自分に変わって、いつも皆の気を抜いてくれている。
明るく、優しい笑顔。……胸が痛かった。
「相さんって、なんかかっこいいっすね……」
「ん?」
「根っこは同じって。俺はそうは思えないです。やっぱり、表裏あるのって、俺すっごい気持ち悪いし……」
瀧見が、うつむいた。湯飲みを持つ手がふるえている。青ざめているのに気づいて、相は、ぱっと身を乗り出した。
「大丈夫か」
「う、……」
瀧見の顔は冷や汗でいっぱいで、青ざめていた。ぎゅっと閉じた瞼はふるえていた。長いまつげから、涙がこぼれる。
「うぇ、」
えづいたのを見て、手から湯飲みをとってやる。口元を押さえて、必死に耐えている。
「大丈夫だ。気持ち悪いなら出しなさい」
背中をさすってやると、瀧見が「うっ」と泣いて相に抱きついてきた。
「う、うええぇ……!」
相の胸元に吐き出す。瀧見は、ずっと、苦しげに息をしている。相は、そっと背中をさすり続けた。瀧見は、ぎゅっと相のシャツにすがってきた。
「大丈夫。苦しいなら、全部出してしまいなさい」
瀧見は泣きながら、吐き続けていた。