「もっと可愛い子と付き合いたい」と恋人に嘆かれている【1】
「いらない?」
「ん。あの子たちと学食行くから」
そう言って、満未は後ろにいる子たちを指さした。いつぞやのリンゴの妖精さんたちだ。嬉しそうにはしゃいでいる。相は、手に持ったお弁当を見下ろす。
「わかった。風紀の幹部の自覚は持って接せよ」
頷きつつ、いちおう長として注意をすると、満未は「はあ」と言う。
「そんなんだから友達いないんじゃない」
刺さった。
「仲間がいる」
「皆怖がってるから、相手してるんだよ。パワハラ」
とても刺さった。
しかし、ここで顔に出すようでは、いけない。
「気をつける」
と言った。満未はいらだったみたいに首を振った。
「っていうか弁当とか、持ってこられても迷惑だし」
「え」
「俺にだってつきあいあるのに。せめて予定聞いてからにしてよ」
そう言って、去っていった。相はぽつんと取り残された。
……確かにそうか。好きになってもらおうとして、独りよがりになっていたかもしれない。手の中の弁当を見て、相はきびすを返した。
「委員長」
行きあった日下部に、声をかけられた。隣には、双葉がいる。二人は手をつないで幸せそうに歩いていた。
「今から飯ですか」
「ああ」
「お疲れさまでーす」
双葉がぎゅっと日下部に抱きついて、手を振る。可愛いな。とても可愛い。日下部は顔を真っ赤にして照れていた。お前も可愛いな。
俺が、満未にしたら……。
思い切り弁当を額に打ち付けていた。
「うわあっ!」
「何してんのお!」
「なに。蚊が止まってな」
驚く二人に、ごまかした。
いかん。気持ち悪すぎて、いかん。
満未が抱きついてくれたら可愛いかもしれないが……。となりで照れているのが俺じゃ、まったく絵にならない。
「では、失礼する」
「あっはい! お疲れさまです」
「またね~」
二人から去る。
恋人の限りある逢瀬の時間をつぶしては、馬に蹴られてしまう。とはいえ、どうしたものか。とぼとぼと、相は歩いていた。
二人で食べる予定だったご飯が、一人になるのは何度経験しても慣れない。少し食べる気自体が萎えてしまった。中庭や校舎裏を、意味もなくさまよう。まあいいや、巡回にもなると気を取り直した。
「和希、ありがとないつも」
「ううん。口にあって、よかった」
途中、また件の皆見とも会う。
そおっとのぞくと、綺麗と言うより清楚という感じのお弁当を、恋人の間地と、ふたりで嬉しげに食べていた。なるほど、あれが恋人のお弁当か……。相が心にメモしていると、ふいに間地の視線がこちらに向いた。
相は我に返って、きびすを返した。
馬に蹴られろと言う目だった。間地、あいつは遠野よりある意味、底知れない男だ。悪い人間ではなさそうだが。
しかしどうしよう。どこにも落ち着ける場所がないぞ。一周回って、意味もなく学食に戻ってきてしまった。
満未が、妖精さんたちとご飯を食べている。遠目に見ていると。遠野がやってきて、満未をこづいた。
「なんだお前。鬼のいぬ間にか?」
「まあな、そんなとこ」
「いい加減、別れちまえよ。そしたらもっと楽しいことできるのに」
な、と妖精さんたちに遠野が笑いかけた。妖精さんたちがほおを染めて恥じらう。満未は、
「そうしたいのもやまやまなんだけどね。円満じゃないと」
と笑った。遠野が、
「仕事が絡むと面倒だな」
と言って去っていった。
相は、ぼうぜんと立ち尽くしていた。油の切れた機械みたいに、どうにか、ぎくしゃく歩いて、その場を去った。