「もっと可愛い子と付き合いたい」と恋人に嘆かれている【1】
「あ、あの子可愛い」
見回りをしていたら、隣の
「仕事に集中しろ」
と言った。満未は「はいはい」と言いながら、彼らに手を振っている。確かにとても可愛い。満未に顔を真っ赤にして手を振る様子なんて、リンゴの妖精みたいだ。彼らは相を見て、ぎくりと居住まいを正した。
「やべ、委員長だ」
相は会釈をして、彼らの前を通り過ぎる。
「こわ~」
「威厳ありすぎ」
可愛い声でのささやきが刺さる。満未が頭の後ろで手を組んで、
「もうちょっと愛想使えば」
と言った。相は重々しく首を振る。
「俺が弱く見えては、学園全体にマイナスになるからな」
そういっていっそう気合いを入れた。満未は「やれやれ」とため息をついた。
「可愛くねえの」
知っている。相は鉄面皮の中で、頷いた。満未はもう一度ため息をつく。
「俺とつきあってる自覚ある?」
「もちろんある」
むしろ、こちらが聞きたいことだが、相は押し黙った。自分のようなものが言っても、ちっとも可愛くない。
「なら、もうちょっと努力してよね。俺、お前じゃなくてもいいっていうか、むしろもっと上、いけるんだからね」
ぐさりと刺さった。しかし、相は「努力する」と校内を闊歩した。
そんな相の目下の悩みは、恋人の
「で、
寮の部屋で、満未が腹筋をしながらずっと話している。相は明日の授業の予習をしながら、それを聞いた。
「まあ、気持ちはわかるよね。和希ちゃんは美人だし。側に置いてるだけで気分がいいもんね」
「人のことを置物のように言うのはよせ」
「歩く石像みたいな奴に言われてもねえ。あ~あ、
シャープペンの芯を折ってしまった。なんと古典的だ。ノックしながら、相は気持ち新たに数式に向かう。満未のかけてるBGMの音楽もかき消す勢いで重い気持ちを払い、集中しようとする。
「あのさ」
満未が声を上げた。明らかにこちらに注意が向いた声で、相はぱっと顔を上げた。振り返れば、満未はあきれた顔で見ていた。華やかな顔に薄く汗が輝いている。朝露を受ける花みたいだった。
「少しは危機感持たないわけ? 自分ももうちょっと頑張ろうとかさ」
相はペンを握った。
「努力はしている」
満未は、ため息をついた。
「もうちょっと恋人らしいことするとかさ。あぐらかきすぎじゃない?」
「しているつもりだ」
本当に。満未は、いっそう不機嫌になって、きれいな顔をぐっとゆがめた。
「できてないし。言っておくけど、俺いくらでも相手いるんだからね。幼なじみの情けって言っても、限度あるから」
そう言って、部屋を出ていった。また
相は満未の気配が去ったのを見ると、がくりとうなだれた。
「そんなこと言われても」
鏡を見る。髪や肌は、整ってきたと思ったんだが、まだ足りなかったか。さわりながら、むなしくなってきた。
「顔立ちは、今はどうにもならない」
強面の顔のことを言われているならば、万事休す。
というか十割それな気がするが。爪を磨きながら、相は満未の言葉を繰り返す。
「いくらでも相手がいるんだから、か」
その通りだ。相はうなだれた。
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