俺の友達がバグってる(希結×那智)


「おい、希結」
「何ー?」

 俺と大は、五個目のパンを食べてる希結に、そろりと近づいた。ちなみに希結のパンの量は、折り返しにも入ってない。全然助走。

「お前……擬態はよくないぞ」
「なんの?」
「那智さんに……」
「ごほっ!」

 すごい勢いでむせた希結に、慌てて背を叩く俺と茶を渡す大。

「お、落ち着け!」
「げほっ、……ちょ、え、何?」
「いや、だから、擬態はよくないわよという話」

 飲み込んだのを確認して、改めて重ねる。
 希結の顔が赤くなる。これは別にむせたからではなさそうだ。

「な、何のことだか」
「いや、お前……もう言うけど、那智さんの前でオメガのフリしてるだろ」
「はぁ!?いや別に、してないし」
「いや、だって……」
「ていうか何、那智くんと会ったわけ!?」

 まぜっ返して怒って来た希結から、大が防波堤となって、俺をかばいながら両手を上げる。

「偶然、偶然だって」
「そうそう! お前のこと話すと嬉しそうにしてたぞ〜」
「えっ」

 一気に「その話詳しく」ムードが出ている希結に、俺たちは畳み掛ける。希結の隣に腰をかけ直し、「まあその話はあとにするにして」と言う。

「で、どうなん」
「那智さんについて聞きたかったら答えよ」

 希結は、ものすごく苦い顔をして、「別に」と言った。

「わざとじゃないし。那智くんが誤解してるから、流れっていうか……」
「えっそうなん」
「子供の頃に勘違いされてから」
「へえー」

 そりゃ災難だな、と頷きそうになったのを大が遮る。

「いや、そこはちゃんと否定しろよ。つーかお前はする奴だろ」
「あっ、そっか。否定しねーの?」
「……だって、那智くんの夢を覚ますわけにはいかないし」
「えっ、いじらし……」

 それでお前、オメガの首輪みたいなチョーカーまでつけて……涙をにじませる俺に反し、大は更に突っ込む。

「じゃあ、那智さんのために抱かれてやる気か?」

 おいおい! そこは突っ込んでやるなよ! とは思うが確かにそうだ! しかし、希結は鬼みたいな顔で睨んできたから、俺は恐怖で震え上がった。

「あぁ!?するわけないだろ! 気持ち悪ぃな!」
「だろ。だったら言っとけよ。傷浅いうちに」
「そ、そうだぜ! 先に言っとかねえと悲劇が生まれるぞ!」
「それは……」

 希結が口ごもる。
 沈黙が走る。
 希結は視線を流していたけど、居直ったかのように息をついた。

「やだ」
「えっ何で」
「オメガってことにしといたほうが都合いいから」
「ええ〜?」

 でもお前そういう目で見られるの大嫌いじゃん。
 目が言ってたみたいで、希結は俺を見ると、ふいと顔を背けた。

「ムカつくけど、得るものの方が大きいから」
「んー?」
「やっぱりな。お前、よくないぞだまし討ちは」
「は?」
「うるさいな。ほっとけよ」
「そんなチョーカーまで買ってよ。店、何軒回ったんだよ」
「うるさい!」

 希結が怒りと恥のどっちかどっちもか、顔を真っ赤にして叫んだ。

「それは言ってやるなよ」

 俺も流石に庇ってやる。それ言われたら俺だったら死ぬぞ。希結は完全にへそを曲げたらしく向こうを向いてる。しかし大は真剣だった。

「そんなことしなくても、口説けばよくね? あの人、お前のことすごい好きじゃん」
「そ、そうそう」
「そうでも、離れちゃうだろ」

 希結は、低い声で言った。

「俺たち子どもだし。那智くんは自分のことアルファと思ってるし、オメガってわかったら戸惑って番になるのごねるかもしれない」

 すごい圧し殺した声で言う。

「そんなの困るんだよ。わかってない内に、確実に仕留めないと」
「希結……」

 こえーよ!!!
 何か切ない風に言ってるけど、めっちゃ怖いから!! 目めちゃくちゃ据わってるし!

「フツーに告白しろし」
「告白はもうしてる。お前らは那智くんの鈍さを知らないからそんなまっとうな事が言えるの」

 親指の腹をぎりっと噛みながら、希結が言った。怖い怖い。

「俺のこと好きって言ったって俺ほどじゃないよ。那智くんはふわっとしてるから……誰でも好きだから……」

 ぶつぶつ言いながら、じーっと壁の一点を睨んでる。

「許さないそんなの。絶対逃さないようにしなきゃいけないんだ。絶対邪魔すんなよ」

 那智くんに言ったら、お前らでも許さないから。

 すっごい怖い目で睨まれて、俺はお手上げだった。大は、手を上げて、頷く。

「まあ、お前の好きにしたらいいけど」

 大は続ける。

「那智さんのためっつーかお前のダチとして、俺ら言ってるからな」

 そう言って、その話を終えた。
 希結は黙り込んでた。


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