2025年バレンタイン拍手
目の前で、プレゼントを差し出す和希を見つめた。
綺麗な顔を真っ赤にして、どこか怯えたように差し出すさまは、常からは感じられないくらい幼気で可愛い。
でも、それが和希の本質だ。
バレンタイン、といえばお菓子会社の戦略だ、とかそいういった話を持ち出す気はない。
けどまあ、こういう日に誕生日になるっていうのは、なかなか面白いところがある。気心の知れた人には「とんでもない日に生まれたね」なんて言われる。
まあでも、「ロマンチック」っていう方が、俺は好きかな。いつでもおこぼれにあずかれる自分は、余裕をもってそう答えられた。
しかし、今年は別だ。
初めて、特別をもらいたい相手ができたのだから。
「間地君、おめでとう!」
皆の祝福をかわしつつ、目当ての子を朝からずっと探してる。
まあ、間地家ともなれば、自分に好意がゼロでもこういった催しではあぶれないものだ。もっとも自分への好意がわからないほど、幸人は鈍くないので、ありがたく受け取る。
しかし、この人波がうっとうしいと思ってしまうほど、たどり着けない。
ようやく姿を見ることができたのは、昼休みだった。
見れば、クラスの生徒が、チョコレートを渡している。いつも通りきれいな笑顔は、嬉しさがふわっとにじんでいた。相手も、いい香りの花にあてられたみたいにぽーっとなっている。
律儀にも用意してきたのだろう、お返しを渡すと何ごとか笑って言った。飛び上がりそうな生徒の背を見送る目は優しい。
わかってる。自分がもらってるってことは、相手ももらってるってことだ。
でも、さすがにそれで「そうだよなー」なんて言えるほど、俺は大人じゃない。人波をかきわけ、肩を叩いた。
「和希」
「間地君」
振り返った和希の、顔色がぱっと明るくなる。それに、一気に気分が浮上する。やっぱり俺といるときが一番かわいい。
和希に、先の男は誰かと聞くと、説明してくれた。その話しようから、本当にただの学友とわかり安堵する。けどありがたそうにしまっているのを見ると、こころ穏やかでない。
それで黙っていると、和希がおずおずと口をひらいた。頬にさっと赤みをさしている。「あの、」と意を決したように言葉を紡ぎ出した。
「その、間地君、今日お誕生日ですよね?」
和希の言葉に、幸人は目を見開く。知っていてくれたんだ。胸がいっぱいになって、言葉が消える。
「おめでとうございます。その、間地君とあえて僕は、よかったと思っていて。ですから、今日は特別な日で……」
和希は生まれてきてくれたことの感謝を伝えてくれた。常にないくらいたどたどしくて、和希がどれだけ、緊張しているかわかった。一挙手一投足見逃したくなくて、幸人は息を詰めていた。
「これ、よろしかったら。僕の気持ちです」
そう言って、紙袋を差し出してきた。そこには、プレゼントらしき包みと別に、もう一つ。
チョコの箱が入っていた。
震えてる指先を、そっと包んでやる。びくっと震えて、顔を上げるので、安心させるようにほほ笑んでやる。こういう時自分は気持ちがあふれて、笑顔しか表情がなくなる。最近知った。
「ありがとな、和希」
「間地君」
「すごく嬉しい」
手を重ねたまま、目を見て伝える。すると、和希はふわりと笑った。安堵と嬉しさがいっぱいに混ざった、やわらかい笑み。かわいくて、抱きしめたくなる。
けど、まだ駄目だよな。告白もしてないし、和希は恥ずかしがりだし。そして、1拍おいて、やっぱり我慢できなくて、プレゼントごと抱きしめた。
いいだろう、たぶん俺なら、許される。和希は首まで真っ赤になってあからさまにうろたえている。
「ま、間地君……⁉」
「最高の誕生日」
和希は、動転しきって、こくこくと首をふる。すごくかわいくて、でも、これ以上は、可哀そうかな、そう思うけど、まだもう少しだけ、離したくなかった。
了
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