2025年バレンタイン拍手
「はい、ハヤちゃん!」
「ナナさん、アオイさん、ありがとうございます!」
月歌の友人のナナとアオイを玄関で出迎えると、二人が笑顔でそれを差し出した。
隼人は「わあ」と破顔した。ハートや茶色、赤色、ピンク色がふんだんにあしらわれた包装はこの時期特有のものだ。
「ハッピーバレンタインです」
「今年はブラウニーだよ~!って知ってると思うけど!」
たいていバレンタインは、中条家で作るのが恒例となっており、隼人も手伝いをつとめるので中身は知っている。しかし、「当日じゃないと気分があがらない」と、わざわざ二人は持って帰って、渡してくれるのだ。気遣いに、いつもありがたく思う。
「嬉しいです!さっそくいただきます!」
「うむ。心して食べなさい!」
喜ぶ隼人を二人は満足げに見て、にこにこ笑った。ふたりの後ろで見ていた月歌が、「ふふ」と笑う。
「ハッピーバレンタイン、隼人」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「勉強の前に、皆でお茶にしよ」
「俺、準備するよ」
手を洗いに行った三人を見送り、隼人はお茶の準備にキッチンに走った。
◇
「おいしい!」
「でしょ~」
「マシュマロのせてあっためるとなお美味ですよ」
皆で、ブラウニーに舌鼓を打っていると、ナナがじっと隼人を見つめた。首をかしげると、「ひひ」と笑った。
「ハヤちゃんはいつもハッピーバレンタインだねえ」
「ですねえ」
「こんなにチョコもらえる子って、そういないんだよー」
「はい。いつもありがとうございます!」
「うむ」
ナナは殿様のように、大仰に頷くと、「ハヤちゃんは勝ち組!」と言った。ぐっと拳を掲げて言う。
「誇れハヤちゃん!チョコもらえる男子は、友達いるより、すごいことだからね!」
「そうです、これだけ入れ食いだと、友達なんてぱぱぱっのぱーですよ」
「――どういう励まし方なの!?」
月歌の突っ込みに、二人はおどけた。隼人は、「あはは」と笑った。毎度、心配かけちゃってるなあ。
とはいうものの、皆の気遣いがありがたい。
今でもじゅうぶん、自分は幸せだ。友達ができると、もっと幸せなのかな?それでも、今は。
「俺、こうしてみんなで過ごせるの嬉しいです!」
「ハヤちゃーん!かわいいやつめ!」
「こら!私の弟だぞ!」
きゃいきゃいとはしゃぐ声が部屋に響く。
ブラウニーをもう一口。ほろ苦い甘さが広がる。優しさが、じんわりしみいった。
隼人に「龍堂太一」という革命が起こるのは、およそ二か月あとのことだった。