2025年バレンタイン拍手
付き合って初めてのバレンタイン。
受けはチョコレートを用意していた。
先月誕生日であげたばかりで、ワンパターンになってないかな。攻めはチョコが好きだから、まああればあるだけいいはずだ、と自分を鼓舞する。
友達みたいな付き合いしかしてない自分たちだけど、クリスマスだって、普通に幼馴染まじえて過ごしちゃったけど、今日は特別なんじゃないかな。
まあ平日だし、学校あるし、過ごせても放課後からだけど、今日は二人で過ごしたり、チョコ食べたりしたいな。何か恋人っぽいこと、するのかな。
ちょっと緊張しながら、その日を迎えた。
男子校だから、まあ共学のような盛り上がりはないんだけど、やっぱりちょっと浮足立ってる。彼女もちの男子に野次飛ばしたり、調理部の生徒が振る舞ってくれたり。
男同士の付き合いに寛容なところもあるから、もちろん逢引きっぽい空気もあちらこちらで感じる。
そんな独特の空気に押されて、受けはクラスに向かう。
「攻め」
「おはよ、受け」
攻めはすでに席に座ってた。
「おはよ~受けさん」
幼馴染と対面で。おいおい。なんで今日と言う日に、俺より早く。
二人を挟む机には、ココアのクッキーとトリュフが。ちまちまとクッキーをかじりながら、幼馴染が言う。
「このクッキー攻めが作ってくれたんだあ。意外に美味しいから、受けさんも味見してみてっ」
「意外には余計だろ」
わいわいはしゃぐ二人をよそに、受けは「そっか」と笑うので精いっぱいだった。クッキーて。手作りて、おまえさ。
「すごいじゃん、攻め」
「へへ。食べてみてよ」
怒るわけにもいかず、嬉しそうにクッキーを指す攻めから、受けはクッキーを一枚もらった。
さくっとほろ苦くておいしい。すごいじゃん、と絶賛したかった。最初にこれ、くれてたら絶賛できたんだけどな!と思いつつ、攻めのキラキラした顔みてると、期待に応えたくなる。
「めっちゃ美味しい」
「俺も結構うまくできたと思ってて」
「毎年作ってるもんね~うまくもなるよっ」
つんつんと幼馴染が攻めの鼻をつつく。「うるさいな」と攻めが笑った。幼馴染がにこにこと話す。
「いつも僕のリクエストで作ってもらうんだあ。来年はザッハトルテのリベンジね」
「え~」
しょうがない。だって二人のほうが、付き合い長いんだし。とはいうものの、だからって今、そんなこと言うか?とすごい嫌になる。攻めが、にこにこしながら鞄を漁って、「これ」とクッキーの袋をとりだした。
「これは受けに。いいの選んだから」
「すごいえこひいき。本当によるの苦労したよ」
受けは、クッキーを受け取ると、ぎゅっと胸の前でそれを抱いた。机の上にあるのより、ずっとたくさん入ってた。これは攻めの愛情なんだと思う。そう思うと胸がぎゅっとなって気分が浮上する。
「ありがとう、攻め」
「で、受けさんのは?」
「出して出して」と幼馴染に水を向けられて、受けはひとまず幼馴染に用意したチョコパウンドを渡した。
「わ~本当にくれると思わなかった。買ったやつ?」
「うん」
二人とも手作りの手前、ちょっと気まずい。でもまあわざわざバス乗って買いに行ったものだし。
「じゃあ確実だ~ありがとっ」
「受け、俺には?」
「後で渡すよ」
攻めが「えっ」てさみしそうな顔をする。自分の気持ちだから、二人きりの時に渡したかった。幼馴染が唇を尖らせる。
「え~いいじゃんっ今渡しちゃいなよ。僕だけなんて攻めに怒られちゃうよお」
「受け、俺今欲しい!」
攻めににゅっと手を出される。受けはぎゅっと鞄の持ち手を握った。
「いや、でもさ」
「受けさん、渡しちゃいなって。今日、僕ら委員会もあるし、あとで渡す時間ないと思うよ?」
ここで、粘ってもよかった。委員会だって待てばいいんだし。けど、待ったって幼馴染がいるんだろうなってわかった。
受けは、観念して、チョコを差し出した。本命にだってはっきりわかるもの。
「すごい差ついてるう。も~やだこのふたり~」
「ごめん。でもほら、バレンタインだからさ」
「そりゃそうだけどっ。ほかの友達も大事にしなくちゃあ」
はは、と笑いをこぼす。攻めは、ケーキを見て、目をきらきらさせていた。
「ありがと、受け!すごい嬉しい」
「ううん」
本当に嬉しそうな顔をしてて、受けも嬉しい。でも、二人きりの時に、この顔を見たかったなあと思った。
そのあとどうしても二人の時間がほしくて、委員会を待って、部屋にまで行った。
そうしたら幼馴染がいて、受けのあげたチョコを食べてた。は?硬直する。
「すごい美味し~!受けさん、奮発したねっ」
「こら、食べるなっていったろ!」
わいわいとケンカを始めたので、仲裁して、帰った。
「受けは幼馴染に優しいよな。バレンタインなのに」
とすねる攻めに、嬉しい気持ちと泣きたい気持ちでいっぱいだった。
なんなんだろうな、俺たち。好きだって、言ってんじゃんか。今日、バレンタインだよな?恋人にとって大事なイベントだよな?
「お前の幼馴染だからだろ」
と言うと、攻めは嬉しそうに、手を握ってきた。
「わかってる。ありがと」
わかってねえよ。辛かったけど、今日初めての二人きりで。だからもう少し、こうしていたいと思った。
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