「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった


 遠野が机に突っ込んだ、派手な音がする。それに目もくれず、幸人は、和希を見ていた。

「え……」
「和希。怖かったな」

 優しい目で、見つめられた。そして、ぎゅっと抱きしめられる。思わず、見開いた目から涙がこぼれた。肩口に顔を埋めると、頭を撫でられた。

「帰ろう。和希の部屋に行こう」
「幸人」
「ごめんな。一人にして」

 目元を優しく拭われる。目を閉じるとこぼれる涙を、何度も幸人の指が、拭ってくれた。幸人は、カバンを二人分背負うと、和希の肩を抱いて、歩き出した。
 瀧見が、「ユキト」と声をかけた。幸人は、身を固くした和希の肩を抱く力を強めた。

「ちょっと待てよ、和希さんは」
「和希はそんな奴じゃない」
「話きけよ!いま、さっき――」
「好きな奴の嫌がってる顔くらい、わかる。馬鹿にすんな」

 幸人の言葉に、和希は目を見開く。幸人は、一切、瀧見に目もくれず、生徒会室を出た。曲がり角を曲がって、棟を出て。和希の部屋に入った瞬間。
 和希は、幸人にかたく抱きしめられた。

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