「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった
「あーあ。見られちゃったな」
遠野が、悪い顔で笑って、自分を抱く力を強めた。和希はしばし茫然として、それから必死に体を離そうとする。がしりと抱きしめられ、逃げられない。
「離して……!」
「なんでだよ?さっきまで楽しんでたのに」
遠野の愉しげな眼は、やめる気はないと言っていた。和希は真っ青になる。どうしてここまで不興を買ったろう。無我夢中でもがいていると、「和希さん」と瀧見が愕然とした声を上げた。
「なにやってんすか?」
「見てわかるだろ?」
「違います!離してくださ――」
「ユキトが帰ってくる部屋で、何やってんすか⁉」
瀧見が震える声で叫んで、壁をたたいた。常の明朗な空気は失せ、怒りに目が血走っていた。遠野の腕から離れようとするが、ちっとも敵わない。恐怖で目に涙がにじんだ。
「公的なことって、こういうことだったんすか⁉本音も言わないで、浮気して……!それ、なんていうか知ってますか!」
「違います……!浮気じゃ、」
「最低って言うんすよ!あんた、最低だ!この大嘘つき!」
和希の顔は、真っ青になった。力なく、うなだれる。幸人の顔が見られない。幸人はずっと立ち尽くしている。瀧見は幸人の袖を引いて、外に出ようとした。
「行こう、ユキト!――もう二度と、ユキトに近づかないでくれ!」
和希は「待って」と咄嗟に口を開いた。遠野の拘束から出ようと、必死に手を伸ばした――
「和希」
幸人に呼ばれた。
顔を上げた瞬間――手を取られる。そして、次の瞬間。
遠野が吹き飛んでいた。
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