「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった
「なんだかなあ」
頭の後ろに手を組んで、日夏は歩いていた。
生徒会室を皆見に追い出された。そこまではいい。一応筋は通っていた。自分は生徒会室に立ち入ってないし、会長の遠野は許したこととはいっても、釈然としないのは、そこではない。
「なんで本音で話してくんないかな」
ストレスがたまる。奥歯に物が挟まったみたいな言い方をされて、内心どう思われてるか、探らなきゃいけないのは、こりごりだ。
幸人の恋人だと思うと、なおさらだ。なんで、恋人の友達に、ここまできつくあたるんだろう。それが、嫉妬だっていうなら、はっきり言ってほしかった。そうしたら自分だって手の打ちようはあるし、皆見のことだって可愛いと思えるのに。
「そのわりに、会長さんには仲良さげだし」
遠野相手には、皆見は正直な感じがした。あの笑顔を外していたように思う。それは遠野の器というものかもしれないが、もやもやする。正直、幸人より打ち解けているように見えたから。それすら、「公的」なものに隠してしまったけど。今、二人一緒にいるんだよな。そう思うと、友達のために、不安になった。幸人は皆見を額面通りのいい奴としかとらないから、なんの疑問にも思わないのだろうけれど。幸人がかわいそうで、つい節介を焼いてしまった。
「正論言って、気持ちを言わないってずるいだろ」
思い出すと、さすがにむかむかしてきた。ああいう人が、人格者だと言われることに、どうしてもアレルギーがある。自分の家族に似ているからかもしれない。自分のことをひどくいじめてるのに、外での評判は最高だった兄たち。改心してくれたとはいえ、日夏の人格形成に、大きく影響を与えたと言って過言ではなかった。
「やっぱ、いっぺんぶつかるしかねーのかな」
兄貴たちみたいに。日夏は、ぱしんと拳をもう一方の手にたたきつけた。仲良くなるには、それしかない気がする。
「よし」
このまま、幸人の膳をとっておいて待っててやる気にはならない。メッセージアプリを立ち上げ、友人に自分の分と幸人の分の膳の確保を頼む。
今日はとことん、やりあってやる。幸人のためにも、見張っててやらないといけないし。そう思って、生徒会室に戻ったのだった。
「あれ、ひなつ」
「ユキト」
曲がり角でちょうど幸人に行き会った。怪訝そうな顔をして、歩み寄ってくる。
「何かあったのか。そっち生徒会室だぞ」
「んーん。ちょっと、和希さんに話あってさ」
「和希に?」
幸人の眉が寄る。よからぬ誤解をしてるなとわかったので、手を振る。
「誤解してんなよ。ちょっと友達として、話してみたくてさ」
「生徒会室にまで来て、話すことか?」
「まあな。鉄は熱いうちに打てっていうじゃん」
「待て」
幸人は、日夏の襟首をつかんで止めた。見上げると、険しい顔をして、見下ろしている。
「生徒会室は立ち入り禁止だ」
「お前までそれ?和希さんじゃないんだからさ」
「またか。お前、和希のことばっか言うよな」
ものすごく不愉快そうに目を眇められる。日夏も、不快に顔をしかめた。友情のために動こうとしているのに、とんでもないカン違いをされて、嬉しい奴はいない。
「お前のためだって。和希さん、いまいちお前が好きかわかんないから」
「お前に関係ないだろ。和希は俺の恋人だ」
「は?」
友達に対して、なんだそれ。この恋人たちは、人に迷惑かけといて、その自覚もないらしい。今だって、「恋人に会ってほしくない」と言えばいいのに、また「立ち入り禁止」だ。むかつきすぎた。幸人のためにとってもらった膳だけど、自分が二つとももらおう。そう決めた。
「だって和希さん、お前に全然打ち解けてねーじゃん」
「それは……そんなことない!」
「そうだって!さっき、会長と話してたけど、すげー仲良さそうだったもん!」
迷惑かけるなって言って終わってやってもよかったけど、ムカつきが勝った。友達のことを傷つけるべきではないのはわかっている。けれども、この情報だって嘘ではない。
幸人は、目を見開いて、足早に生徒会室に向かった。ほら、幸人もそう思ってるんだ。日夏は勝った気持ちになり言いつのった。
「和希さん、お前のことで嫉妬なんかしないって言ったんだぜ!」
「帰れ!」
「ダチとして許せねえだろ!ちゃんとユキトを好きだって聞くまで、帰らねー!」
「そんなの俺が聞く!お前の出る幕じゃない!」
あんまりの言葉に、日夏はカッとなった。袖につかみかかり、ついていく。
「立ち入り禁止だって言ってるだろ!」
「話してえんだって!」
幸人がドアを開けた。その先の光景に、日夏は目を疑った――。
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