「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった
六月、恋人の幸人が、突然の部屋替えをした。名家出身で、生徒会役員である幸人は、個室をあてがわれている。それなのに、突然二人部屋に引っ越したのだ。「どういうことだろう」と、和希が首をかしげていたら、なんと季節外れの転校生、瀧見と同室となっていた。
幸人が、自ら同室になりたいと申し出たのではないか、というのがもっぱらの噂だった。
和希はその話を、なんとも言えない気持ちで聞いたものだ。瀧見のことは、和希も知っていた。
瀧見に学園の案内をしたのが、和希本人だったからだ。
開口一番「嘘くさい笑顔」と言われ、和希は固まった。そこに、幸人の話が加わったのだ。和希は、瀧見に苦手意識を抱いた。
「ごめんな。ひなつが学園になじめるまで面倒見てやりたいんだ。これからしばらく、ひなたを優先すると思う」
正直、ものすごく嫌だった。けれど大好きな恋人に、心底申し訳なさそうに言われては、どうしようもなかった。転校生に不便な思いをさせるなんて、生徒会の名折れとも思えたし、何より幸人に心の狭い人間と思われたくなかった。
それから、幸人はずっと瀧見といるようになった。休憩時間も、食事も、放課後も、ずっと瀧見と行動した。
もちろん時間を作って、会いに来てくれた。けれどいつも瀧見が傍にいるか、やってきた。
「ユーキトッ!」
幸人と話していると、瀧見が走ってきて、幸人の背に飛びつく。
幸人は驚いて「危ないだろ」と叱る。「へへっ」と笑う瀧見に、背を払いながら「ひなつは仕方ないな」と幸人は言う。
そのやりとりは学園の恒例になって、周囲も楽しみにするくらいだった。
和希が瀧見に焦げ付くような嫉妬を抱くようになるのに、時間はかからなかった。
瀧見が学園になじめるよう、和希自身も努力し、何くれとなく力になった。しかしそこには、「少しでも幸人と一緒にいたい」という気持ちがあって、やましかった。
瀧見に阻まれず、幸人とふたりで一緒にいられるのは、生徒会の間だけだ。
けれども、「瀧見は生徒会の補佐になるんじゃないか」と、皆の間でもちきりだった。
瀧見は明るくて元気で、人に好かれる愛嬌もある。幸人の推薦があれば、きっと通るだろう。
そうなったら、もうずっと和希は、幸人と二人でいられることはない。暗澹たる気持ちだった。
瀧見は悪い人間ではないのはわかる。自分に対しても、
「こないだはすみませんした!ユキトから、そういうやつじゃないって聞いて。だから、ちゃんと和希さんのこと知って、仲良くできたらなーって!」
と、謝って、仲良くしたいと言ってくれた。けれども、自分はそれに対し、応えられる気がしなかった。
嫉妬まみれで、辛かった。瀧見は幸人の大切な友達なのに。こんな気持ちを、幸人に知られたら。
そう思うと、何も言えなくて。このひと月、和希は、いつも通り振る舞うことばかり必死になっていた。
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