「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった
学校に行ったのは、翌日だった。和希は、午後から行こうとしたのだが、「今のお前を外に出したくない」と幸人が止めた。幸人が必死な様子なので、和希はうなずいた。
手をつないで、学園に向かう。
通いなれた場所なのに、いつもと違うように感じた。幸人を見上げると、にこっと笑いかけられた。和希も笑顔を返す。すると、幸人がもっと嬉しそうにするので、和希は幸せだった。ひとりでに、笑みがこぼれる。じっと幸人が和希を見た。
「ほかのやつに、見せたくないな。お前のこと、ひとりじめにしたい」
「幸人……」
甘い言葉が嬉しい。ぎゅっと握られた手を、和希は握り返す。
始業のチャイムが鳴るまで、ふたりは名残を惜しんだのだった。
◇
それから、日常は過ぎた。
幸人は瀧見と話し合った結果、距離を置くことにしたらしい。瀧見の方も、異存はないようで、あれ以来、和希と幸人の前に、姿を現さなかった。
あんなに和希に怒っていたのに、すこし不思議だったが、きっと幸人がまっすぐぶつかったのだろう。幸人は誠実だから。瀧見だって、まっすぐな性格なのだろう。
瀧見のことは、嫉妬でまっすぐ見られなかったけれど、彼が自分に対して怒った意味が、最近は少しわかる気がした。
「和希ちゃん、いつもありがと~!」
「いいえ。楽しんできてくださいね」
恋人のもとへ行く双葉を送り出すとき、双葉はじっと和希を見た。和希は首をかしげる。
「なんか、変わったね。和希ちゃん」
「え?」
「雰囲気?やわらかいっていうか。幸せそう」
その言葉に、和希は頬に片手を当て、はにかんだ。心当たりは、はっきりあったから。双葉は、にっこり笑うと、肩を叩いた。
「また話聞かせてよ~。じゃ、行ってくるね!」
「はい」
手を振って、見送った。
自分は、なんだか変わったのかもしれない。幸人と愛しあってから――双葉の言うとおり、ずっとふわふわしている。その気持ちが、乖離した心と笑顔を、ずっとつないでくれている気がする。自分の心が、確かにここにあるのだと、いつも感じられる。
和希は自分の胸元に手を当てる。
自分がこうなったのは、処世術だってあったと思う。けれど、それを言い訳にして、やり過ごしたことも、見ようとしなかったものも、たくさんあった。瀧見や遠野が自分に怒っていたのは、そういうことではないだろうか。
これからは、向き合っていけたら。――そう、思えるのは、全部、あなたがいるから。
「和希!」
向こうから、幸人がやってきた。光を受ける、きれいな髪。同じ色素の瞳を、和希は見返して――自らもまた、幸人のもとへ、駆けだしたのだった。
《完》
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