「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった
目が覚めた。幸人の肌を感じて、恥ずかしさと、安堵を覚えた。とんでもない姿を、余さず幸人に見せた。幸人は、じっと見て、それでも大好きだと言ってくれた。火照る顔を、幸人の胸に寄せる。
そっと、幸人の背に手を回した。幸人の頬には、かすかな涙の跡がのこっている。
「死にたい」だなんて、ひどいことを言った。
幸人が悲しい、傷ついた顔を隠したのを、和希はみとめた。自分が離れたくないばかりに、幸人の気持ちを考えてなかった。幸人は、自分を惜しんでくれる。大切に愛してくれる。それを、身をもって教えてくれた。
こんな自分を、どうして幸人が愛してくれるのかはやっぱりわからない。離れる恐怖は、やっぱり付きまとう。
けれど。
幸人の傍にいたい。もしいつか、幸人と離れる時が来たとしても――それでも、それまでは、幸人の愛を、信じていたい。違う。信じなければ、ならない。――それが、きっと、ふたりでいるということだから。
ずっと自分はどこか、一方通行だと思っていた。それでいいと思っていた。ただ、愛させてくれるなら、それだけで幸せだった。でも、それは違った。一方通行がよかったのだ。離れるのが、どうしても怖かったから。幸人の愛を受け取ることに、自分は、どこかずっとおびえていたのだ。
けれど、それじゃ駄目だ。
和希と幸人は別の人間で、けっして一つにはなれない。けど、幸人は自分に手を伸ばしてくれた。その意味を、自分は考えないといけない。
ずっと自分は甘えていた。優しい幸人の愛情に、甘えながら――本当に、それを受け取っていなかった。恥ずかしくて、消え入りそうになる。
怖くて仕方ない。けれど、本当に愛したい。――愛し合ってみたい、幸人と。
強くなりたい。心から、そう思った。幸人とふたりで、ずっと歩いていけるように。
幸人が目を覚ます。和希を見て、やわらかくほほ笑んだ。朝の光を受けて、きらきらと髪が金に透ける。和希はじっとそれに見惚れる。
「おはよう、和希」
「おはよう、幸人」
和希は、幸人を見つめた。透き通った瞳に、自分が映っている。
「体、つらくないか?」
「うん」
和希ははにかんで答える。幸人は、ふふ、と笑って、額どうしをくっつけた。
「愛してるよ」
あたたかな声に、和希は自分の体に、幸福が満ちるのがわかった。和希の目に、涙が浮かぶ。その気持ちのまま、幸人を見上げた。
「嬉しい」
「――和希」
「僕も、愛してる。幸人のこと」
和希は、幸人を抱きしめた。すがるのではなく、受け止めたかった。幸人が、耳元で息をつめたのがわかった。怖くないと言ったら、嘘になる。けれど、踏み出さなきゃ。
幸人が、強く自分を抱きしめる。お日様みたいにあたたかな体が、熱を持っていた。和希の頭の後ろに手をやって、胸に抱きすくめる。その強引さは「自分のもの」だと、言われてるみたいで、和希は嬉しかった。
体を離して、見つめあう。幸人は顔を赤くして、笑っていた。
「嬉しい」
「幸人」
「やっと、和希が俺を見てくれた……」
こんなに幸せそうな幸人の顔を、見たことがなかった。和希は、惚ける。自分が幸人に、こんな眩しい笑顔をさせている。その事実は、和希の胸を大きくふるわせた。自分という存在が、幸人によって、形を確かにする。
和希はふるえる心のまま、幸人の額に、そっとキスをする。そして、ぎゅっと頭をだきしめた。
「好き、幸人」
「和希」
「ずっとひとりにして、ごめんなさい」
もし、自分が愛をうけとめることで、幸人が喜んでくれるなら。自分の持てるものすべてで喜ばせたい。
おそろしく、無防備な行動だった。指先が冷たい。でも、幸人なら、受け止めてくれる。そんな甘く切ない期待を、自分はすでに抱き始めていた。
幸人が、和希の体を抱き返す。気が付けば、幸人が和希を見下ろしている。
「好きだよ、和希」
唇に、キスが降る。和希はそれにこたえるように、幸人の背に手を回した――。
21/22ページ