「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった


 完璧で、優美な笑顔を見せて去っていった皆見に、瀧見日夏は「はあ」と息をついた。
 いつもどおり、隙のない人だと思う。恋人の幸人の前でさえそうなんて、堅苦しくないのだろうか。幸人は気にした風もなく、日夏に向かって、「行くぞ」と言った。てくてく、頭の後ろに手を組んで、日夏は続く。

「なーユキト」
「ん?なんだよ」
「和希さんって、ほんとにお前のこと好きなん?」

 直球の質問に、幸人は噴き出した。日夏は「汚っ」とからかう。幸人は「うるさい」と口元に手をやり、整えながら、応えた。目元に赤みがさしている。

「そりゃ、まあ。和希は嫌いなやつと付き合うやつじゃないし……」
「なにその希薄な感じ。愛されてるって実感ねーの?」
「うるせーな!あいつは皆に優しいから、お前にはパッとしねえかもだけど!俺にはかわいいとこ、いっぱい見せてくれてるから!」
「皆に、なあ」

 その割に、俺は嫌われてる気がするんだけど。
 と、いうか、和希さんは別に、芯から優しい人じゃないと思う。
 なんとなく、あの人の笑顔は嘘くさい。転校初日、それをうっかり口に出してしまったのが、運の尽きか……どうにも皆見は自分を目の敵にしているように感じる。
 同室で、即日馬が合った幸人の幼馴染で、幸人の「いいやつ」って言葉を信じて付き合ってみているが……たしかにきっちりしてるし、よく人のこと見てるし、いい人なんだ、とも思う。だから、それを伝えてみたりもするんだが、いっそう嫌われて悪循環だった。

「もうちょっと本音でぶつかってほしいんだけどな」

 そしたら、こっちも、もう少し好きになれると思うのに。そしたら、幸人の惚気も、脳がバグらないで、もう少し平穏に聞き流せるのに。
 腹割るってそんなに難しいかな。
 日夏は人知れず、ため息をついたのだった。

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