「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった
拾い上げたマスターキーを、幸人は無感動に見おろした。
こんなものまで渡していたなんて、どこまで伯父馬鹿が過ぎるのだろう。幸人はそれを使って、オートロックの玄関の鍵を開ける。合鍵は持っているけど、今はあいにく部屋の中だ。
「和希」
和希は、ベッドの上でうずくまっていた。ひどくふるえる体を、抱きしめると、和希は「ゆきと」とすがった。幸人は背を優しくあやしてやる。怖くないと、伝えるように。
「もう大丈夫」
「ごめんなさい。僕――」
「何言ってるんだ。俺こそ、ごめんな」
和希は首を振った。「ゆきとばっかり」と、悲しい声で言う。幸人は落ち着けるように、額に優しくキスをする。ひどく冷たい体に熱を与えるように密着させた。
「愛してる」
「幸人、」
「どうしたら伝わるかな。お前が好きだって」
震える手が背に回された。その手の必死さに、幸人の胸が高鳴る。和希は、「僕」と、涙で苦しい息をついで、言葉をつむいだ。
「幸人といると、幸せなんだ」
「和希」
「何も怖くなくて、自分のことも好きになれる。でも」
和希はぎゅっと幸人にしがみついた。小さく、息をついてから、絞り出すように言った。
「幸人と離れることだけ、ずっと怖い」
幸人は目を見開く。和希は、幸人の胸に顔をうずめている。だから、その顔は見られない。けれど、その切実さは、声で伝わる。
「死んでしまいたいって、思ってた。幸人のそばで、幸人が思ってくれてるうちに」
「和希」
「ごめんなさい……」
幸人は、和希をこれ以上なく、強く抱きしめた。ぎゅっと背がそって、心臓の音が重なる。苦しさに和希は息を漏らしたが、幸福そうだった。幸人は、和希を見つめる。和希は、涙にゆれる目で、じっと見返した。
「愛してる。ずっと、お前だけ」
「幸人」
「死ぬほど好きだよ。和希」
幸人は、ベッドに和希を押し倒した。涙にぬれた唇を奪う。
「ん……っ」
和希の腕が、幸人の首に回る。幸人は、和希の服の中に、手を滑り込ませた。
それが、合図だった。
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