「笑顔が嘘くさい」と言ってきた転校生が恋人の親友になった


「ユキト!」

 日夏は、皆見の部屋に乗り込んだ。部屋に帰っても、いないから、きっとここだと思った。ドアに耳をつけると。なんとなく人の気配がした気がする。
 あの野郎、この期に及んで、まだ幸人を連れ込んでるのか。反省もしないで、どんな性格してるんだよ。
 頭の奥がぎゅっとなるほど怒りの熱を持った。ドアノブを回すが、鍵がかかっている。日夏は舌打ちした。

「皆見、いるんだろ⁉出て来いよ!」

 ドアを叩きまくる。返答がない。絶対に中にいる。そう確信していた。いなくったって、確かめないといけない。いなければ、まだ皆見がそこまでクズじゃないと信じられるし、むしろいない方がいい。日夏は転校初日に伯父からもらったマスターキーを取り出すと、鍵を開けた。
 勝負だ!心の中で叫んで――日夏は廊下を抜け、扉を開いた。

「な……」

 ベッドの上で幸人と皆見が、抱き合って、こちらを見ていた。服を着て、身を起こしてはいるが、さっきまで寝ていたのだろう。そんな緩い気配があった。わざとらしくふるえる皆見を庇うように、ぎゅっと抱擁を固くする。
 悲しかった。こういう時、自分の勘は、本当によく当たる。一度でいいから外れてほしかった。それなら、傷つかないで済むのに。

「ひな――」
「何してんだよ!このバカやろうッ!」

 部屋中にびりびりと響き渡る大声で、日夏はさけんだ。皆見が、ぎゅっと幸人の服を握る。その甘えたしぐさに、日夏はいらだちが止まらなかった。幸人が、日夏を見据える。

「そっちが何してんだよ⁉不法侵入なんて……!今すぐ出ていけ!」

 静かに怒鳴り返してきた。幸人が怒ったのなんて初めてだ。日夏はそれに思わずひるんだ。しかし、マスターキーを握りしめ、怒鳴り返す。

「ああ、出ていくさ!お前がここから出てくならな!」

 幸人が「は」と怪訝な声を上げた。日夏はぶんぶんと鍵を振り回しながら、幸人を――皆見をにらみつける。

「それでイーブンだろ⁉何か間違ったこと、言ってるかよっ!」
「なに言ってる?」
「いい加減に現実見ろよ!逃げたって何にもなんねー!都合の悪いことから逃げんなよっ!」

 日夏の目に涙がにじんだ。戦いだ。ここで絶対にわかってもらう。わかってもらうまでは、退かない。これが自分の戦い方だし――幸人のためなのだ。幸人が駄目な奴じゃなければ、きっとわかる。そして、幸人は駄目な奴じゃない。
 びっと皆見を指さして、にらみつけた。こいつにも、――いや、こいつにこそ、言ってやらないと気が済まない。

「皆見!あんたも幸人が好きなら、矢面に立たせて辛くねえのか⁉あんたにとって好きなやつって駒か⁉」
「黙れ!」

 幸人が立ち上がり、叫ぶ。その声は、先とは比べ物にならない怒気が満ちていた。日夏をつかんで、部屋の外に引きずる。幸人は皆見を振り返り、比べ物にならないくらい優しい声で言う。

「ごめんな、和希。すぐ戻るから」
「離せッ!皆見、なんでもやってもらって当たり前と思いやがって!甘えてんじゃねえっ」

 軽い荷物のように引きずられていく。玄関に向かって連れられながら、日夏は声の限り叫んだ。願わくば、この声が、皆見に届いて、改心してくれるように。幸人は「黙れって言ってる!」と低い声で、言ってきた。俺を脅してるんだ。

「ユキトッ!目を覚ましてくれッ!今はつれーかもしれねえ!でも、これからの人生のが長いんだっあのとき思い切ってよかったって思うから!俺のこと信じろよッ」

 腕を振り回して、日夏は力の限り暴れている。なのに、幸人は聞かない。玄関は目の前だ。日夏は、親友のあまりの聞き分けのなさに、悲しくなった。わああと、怒りにのぼせ上がる。

「クソーッ!――皆見ッ俺のダチをだましやがって!皆がお前に思いどおり動くと思うな!俺はわかってんだ!自分だけお綺麗ぶりやがって!そういうとこが、一番卑怯で、汚――」

 幸人に喉をつぶされる勢いで、首を絞められたのは――。
 玄関の扉が閉まってすぐだった。

 
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