本編


「隼人~、ご飯よ~!」
「はーい!」

 階下から、母の呼ぶ声がして、隼人はノートを閉じた。テキストやペンを片付け、机に残ったそれを、取り上げる。

「うーん。全然追いつかないなあ」

 長い間、お休みしていたハヤトロク。隼人は勉強の傍ら、それを書き始めた。今までよりとる時間も少ないし、開いていた期間も長い。その上、毎日書きたいことが増えていって、ちっとも今に追いつかなかった。
 困ったように言いながら、隼人の心は、いっぱいに満たされていた。

「はーやーと。お母さん、怒ってるよ」
「ごめん!すぐ行く!」

 月歌に促され、階下に降りる。

「根詰めすぎちゃ、だめだよ?」
「お姉ちゃんこそ」

 そう言って、二人は笑いあった。

 母のおいしいご飯を食べて、それから隼人はウェアに着替えた。
 すっかり日課になったウォーキングに、リビングの父が慣れた様子で、「行ってらっしゃい」と言った。

「お父さんも、少しは運動しなさいよ」
「母さんが行くなら……」
「嫌なこと言うんだから!」

 ふたりのやりとりに、隼人は笑って、「行ってきます」と言った。父は「隼人」と声をかけた。振り返ると、父はにっこり笑った。

「なんでもない。気をつけてな」
「うん!」

 父の言葉に、隼人は大きくうなずいた。何も言わない。けれど、はっきりわかる。
 ありがとう。隼人は、心の声でそう伝える。
 そして、隼人はもう一度、「行ってきます」と言って、ドアを開けたのだった。


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