本編
それから――また、日常が、始まりだした。
「おはよー中条」
「おはよう!」
ケンやマオ、ヒロイさんたちとは、時々話す仲になった。特にケンとはよく話すので、隼人はマオやヒロイさんたちのことに詳しくなっていた。
「マリヤちゃん、おはよう」
「うん……」
マリヤさんは、あの時、駆け寄ってきてくれた子たちのグループに入ったみたいだ。龍堂やケンたちは、「勝手だ」と怒った。隼人にはそれで、十分だった。
「フジタカ~。宿題教えてよ」
「これくらい、公式見てとけるだろ。授業聞いてたか?」
「は~そういうこと言うし!鼻高すぎ!」
オージは、ケンやマオ、ヒロイさんたちのグループに本格的に入った。よく言い合いをしているが、オージの言葉や表情は以前よりずっと、くだけていて、安心しているように見えた。
時々、隼人が一人でいると、オージは静かに話しかけてくる。それは、とりとめもない、穏やかな会話で。オージが今、彼らといて楽しいのだとわかった。
そして、ユーヤは。
「ケン~!俺にも教えて!」
「おまえ、全部って!絶対やるの忘れただろこれ」
ケンとあらためて友達になり、グループに戻った。「てへへ」と笑うユーヤに、マオとヒロイさんが呆れ声を上げる。
「ユーヤ、さすがになめすぎ!」
「働かざる者食うべからず~でしょ」
マオとヒロイさんの二人は、気持ちを都度、小出しにするようにしたらしい。以前より、いい距離感で付き合えているようだ。ユーヤは「むー」と唇をとがらせる。ケンに促され、しぶしぶ「お願いします」と頼んだ。ケンが教えている間、マオがオージに声をかける。
袂をわかったオージとユーヤだが、お互いに、適切な距離感を保っている。グループというものの力を感じて眩しい。
「ナカジョー!」
ユーヤに呼ばれて、振り返る。ユーヤがテキストを持って、「お前だって、問三とけてねーよなっ?」と声を上げる。隼人は、「解いたよ!」と返す。「はあ~?」と言うユーヤを、ヒロイさんがからかう。
隼人は、新学期の次の日のことを思い出す。
『ナカジョー』
心配そうな両親に、送られてきたユーヤ。ケンと挨拶を済ませると、硬い顔で、隼人のところへ歩いてきた。唇を真一文字に結んだユーヤと、隼人は見つめあった。
『ごめん』
そう言って、ダッシュで去っていった。ケンに「おい、言い逃げするな」と言われ、もう一度、隼人のところへやってきた。隼人はぽかんとしていた。ユーヤは、ばつが悪そうに、目を泳がせて、ぼつぼつと言葉を続けた。
『リュードーにも、謝る』
『一ノ瀬くん』
『だから、ごめん。……その、いろいろ』
顔を真っ赤にして、一生懸命に謝るユーヤに、隼人は胸が温かくなった。「いいよ」と笑った。
ユーヤは安心したみたいで、ぱっと顔を明るくした。その笑顔は、眩しかった。
そして二人は、握手を交わしたのだった。