本編
「一ノ瀬くん」
ユーヤは悄然と、今にもくずおれそうだった。隼人が近づいてきたのを見て、「なんだよ」と声をあげる。その声にも、力がなかった。
「偽善者……!笑いに来たんだろ」
「違うよ」
「なんでだよ、けっきょく、おればっかり……うわああああ……!」
とうとう、膝からくずおれて、泣きだした。嘆く声も、弱弱しい。「ユーヤ、」と、ケンがこちらにやってきたのがわかった。
「落ち着けよ。いい加減にしろ」
「ケン……!わあああ……」
「お前も、火に油注ぐな」
ケンがしゃがみこみ、ユーヤの背をたたく。そして、隼人に注意した。
ユーヤは幾分、気持ちを落ち着けたようで、泣く声にも、張りが出ていた。隼人は、その姿を見て、「うん」とうなずいた。
「たしかに、俺は偽善者かもしれない」
隼人は、まっすぐにユーヤを見つめた。ケンは「は」と怪訝そうな顔で見上げた。
「一ノ瀬くんのことは、本当に怒ってる。本当に、ちゃんと謝ってほしい」
今までのことが、体中を、ぐるぐると回る。隼人は目を閉じ、ぐっと力を込めた。そして、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「龍堂くんにも、俺にも、ちゃんと。けど」
隼人は、しゃがみこむ。ユーヤと同じ目線に合わせて、はっきりと言った。
「一ノ瀬くんが、ひとりになれなんて、思えない」
ユーヤが、顔をこわばらせる。見張った目から、ぼろりと涙がこぼれた。隼人は、じっと見つめ、それから自嘲して、頭をかいた。
「大好きなひとに、ひどいことしたのにね。本当に、自分勝手だよ」
「からあげ……」
本当に、そのとおりだ。
龍堂を傷つけたのに――龍堂が、ずっと、ユーヤのことで心配をしてくれているのに。なのに、自分は、ユーヤのことを案じている。自分の気持ちを、貫くなんて。
それはすごく贅沢で、ありがたくて――幸せなことに思えた。隼人は、笑って、ユーヤを見る。
「それだけだよ。聞いてくれてありがとう」
隼人は立ち上がった。そして、龍堂のもとへ帰る。
龍堂は、何も言わなかった。ただ、静かに笑って、隼人を待ってくれていた。
その目を、見つめるだけで、思いの全部が、伝わってきた。隼人は、胸の中がいっぱいになる。隼人は駆けだした。そして。
――龍堂の胸に、飛び込んだのだった。