本編


「ふう」

 ひとしきり泣いたら落ち着いてきた。隼人は息をつくと、ハンカチで頬をぬぐった。拭いきれなくて、顔を洗おうと思い立つ。そこで、お腹が盛大に鳴った。

「時間もないし、食べてからにしよ」

 鞄を持ってきてよかった。お弁当をいそいそと取り出すと、開ける。いつものおかずが、こんなにもありがたい。

「いただきまーす」

 つとめて明るく、両手を合わせた時だった。

「ん?」

 どこからか、笑い声が聞こえた気がした。タコさんウインナーを頬張りながら、隼人はきょろきょろと辺りを見回した。すると、裏庭の奥のベンチに、人がいた。寝ているのだろう、ここからは足しか見えない。
 そこまで考えて、隼人は「しまったあ」と顔を真っ赤にした。さっきまで頭がいっぱいすぎて、真の無人かの確認を怠っていた。流石に高校二年の男児として恥ずかしく、おろおろと顔をさまよわせる。しかし、今更逃げるのもなんだし、何より時間もない。
 ひとまずお弁当を食べようとしたところで、いよいよ大笑いする声が聞こえた。

「あはははっ」

 あんまり高らかな笑い声に、隼人も流石にきまりが悪くなった。

「ちょ、ちょっと!」

 と、お弁当を片手に立ち上がり、そちらに向かった。そして、ぎょっと目を見開いた。

「龍堂くん!?」

 笑い声の主は龍堂だった。思いの外、笑い声が甘くてわからなかったが、そういえば聞いた声だ。龍堂は、仰向けにベンチに寝転んで、隼人を見上げていた。逆さの目に、笑いを残して。

「よう」

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