第一章 ~再会~(49P)
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「……柚希」
甘く切ない声で名を呼ばれれば、もっと近くに感じたいのだと銀時を求めて止まない体。
「シロ……」
言葉にせずとも名を呼び返すだけで、どれ程までに欲しているかが分かる。笑みを浮かべて一つ頷いた銀時は、それに応えるように優しく柚希の下着に手をかけ、その奥にある欲を解放させようとした。
ところが……
ガタガタッ! と玄関から大きな音が聞こえ、ガラリと戸が開く。
慌てて飛び起き耳を澄ましてみれば、それは新八と神楽のようだった。
「あれ? やっぱり鍵が開いてる。銀さん達、もう帰ってきてるのかな」
「マジでか? 私たちより早いとは思わなかったネ。でもその割には静かアル。ってことは奥の部屋でこっそり大人の柔軟体操アルか? 未だ明るい内から夜の運動会ネ」
「まっさかぁ。銀さんはともかく、柚希さんはそういう人じゃないでしょ。神楽ちゃん、下種の勘繰りし過ぎだよ」
例のごとく神楽の危険なネタ振りに、新八が苦笑しながら言う。しかし新八から諫められたところで、めげるような神楽では無い。
「そうアルか? 意外と清純そうに見えて、実は裏の顔を持ってるかもしれないネ。男は獣、女は魔物って言うアルよ」
「……ほんと神楽ちゃんって、どこからそういう知識を拾ってくるわけ?」
「サドがよく言ってるネ。気の強い魔物を下僕にするのがまた快感だって」
「一度あちらの保護者とじっくり話をした方が良さそうだな……。っつーか、うら若き乙女に何教え込んでんだよ、沖田さんは!……っと、そんな事より、銀さぁん。帰ってますかぁ?」
聞こえていた会話と、ドタバタと賑やかに近付いてくる二人の足音に、銀時のこめかみがヒクヒクと震えている。
目の前の柚希と部屋の外を見比べ、一瞬迷ったようにも見えた銀時だったが、様々な感情の綯交ぜになった表情でハァッとため息を吐くと、優しく柚希の頭を撫でてから立ち上がった。
「続きはまた、な。着替えたらこっち来いよ」
そう言って、自分が出られる最小限の広さに襖を開け、部屋を滑り出る。それは新八たちと丁度目が合うタイミングだったようだ。
「やっぱり銀さん、帰ってたんですね」
新八のさわやかな声と同時に、銀時が襖を後ろ手に閉める。隙間から銀時たちの姿が見えなくなる直前、指で丸を作っていたのは、時間を稼いでやるという事だろうか。
「私たちがいない間に、どんだけ競技進めたネ? 柚希と何種目制覇したカ?」
「お前ねェ、頭ン中が爛れ過ぎだっての。しばらくドS王子に会うの禁止な。柚希は今着替え中だから、出てくるまで待ってろよ」
「はーい」と素直な声が聞こえ、三人の気配が部屋の前から遠のいていく。それに呼応するかのように、すぐ側に置いてあった着替えを抱きかかえて聞き耳を立てていた柚希の体からは、ドッと力が抜けた。
「あー、焦った……」
バクバクと激しく脈打つ心臓に落ち着くよう言い聞かせながら、いつの間にか頬を伝っていた冷や汗を拭う。
その気になっていた自分が恥ずかしくなり、叫びそうになるのを必死で堪えた。まさか本当に夜の運動会を開催しようとしていたなんて、口が裂けても彼らの前では言えない。
「でも、ちょっと惜しかったかな……なんて」
そこに誰もいないからこそ小さく言える本音が、思い出させる銀時の熱。
先ほどまで銀時が触れていた胸の先端は未だ、あの愛しい温もりを待っているかのように尖ったままだ。
「もうこんな日が来るなんて、思ってなかったからなぁ」
そう言ってフッと笑みをこぼした柚希だったが、瞳には何故か悲し気な色が浮かんでいた。
「ねぇシロ、私は全てを思い出したけど……」
大きく着物を振り開き、自らの肩にかける。
「もう一つ『枷』があったことも、思い出しちゃったんだよね」
素早く身なりを整え、パチンと頬を叩いた柚希は、何かを決意するかのように前を見据えた。だがその意味が、口にされる事は無い。
「さて、と。皆待ってるかな?」
わざとらしいほどに明るい声で言った柚希は、襖を開けた。
「お待たせ」
「何ぐずぐずやってたアルか、柚希! 待ちくたびれたネ」
「着替えは終わりました? 姉上の買い物のついでに甘い物を買ってきたので、一緒にお茶にしましょう」
早速聞こえてきた子供たちの声に、柚希の頬が緩む。チラリと椅子に座ってジャンプを読んでいた銀時を見れば、死んだ魚のような目で気怠そうにしながらも、口元は微笑んでいた。その表情から銀時が、どれだけ彼らを大切に思っているのかが伝わってくる。
駆け寄って来た神楽に腕を引っ張られながら、改めて柚希は思った。
――本当に良い仲間たちと出会えたんだね。シロ。
と。
「ほら、待たせたお詫びに柚希がお茶を淹れるネ。さっさとしろヨ」
「はいはい。急いで準備させていただきます」
「あ、柚希さん。今回は洋菓子なので紅茶にしませんか?……って銀さん、未だ食べちゃダメですってば!」
「これは味見だからね。毒が入ってないかチェックしてるだけだからねッ」
「ふざけんなヨこの腐れ天パ! お前はいちご牛乳の海で溺れ死ぬヨロシ」
「……神楽ちゃん、多分それ銀時にはご褒美だよ」
「マジでか? いちご牛乳まみれがご褒美って、銀ちゃんはマゾだったアルか」
「いやいや、いくら銀さんでも溺れ死ぬのは嫌だからね? でもまァ柚希に溺れて腹上死……グハァッ!」
テンポの良い会話の終わりは、まさかの強烈な柚希のげんこつで。
白目を剥いて倒れる銀時に、真っ青な顔の新八と笑い転げる神楽を見ていれば、思わず柚希も吹き出してしまう。それにつられて笑いだす新八と、不貞腐れる銀時の姿にますます笑いが止まらない。やがて銀時まで一緒に笑い出し、部屋が笑顔で一杯になっていく。
そんな中、柚希が秘かに願っていたのは『私も彼らと一緒に、いつまでもこの幸せな時を過ごしたい』という事。
だが、その小さな願いに水を差す出来事が近付いている事を、この時の柚希は未だ、知らないーー。
第二章 ~松陽~(83P)に続く
甘く切ない声で名を呼ばれれば、もっと近くに感じたいのだと銀時を求めて止まない体。
「シロ……」
言葉にせずとも名を呼び返すだけで、どれ程までに欲しているかが分かる。笑みを浮かべて一つ頷いた銀時は、それに応えるように優しく柚希の下着に手をかけ、その奥にある欲を解放させようとした。
ところが……
ガタガタッ! と玄関から大きな音が聞こえ、ガラリと戸が開く。
慌てて飛び起き耳を澄ましてみれば、それは新八と神楽のようだった。
「あれ? やっぱり鍵が開いてる。銀さん達、もう帰ってきてるのかな」
「マジでか? 私たちより早いとは思わなかったネ。でもその割には静かアル。ってことは奥の部屋でこっそり大人の柔軟体操アルか? 未だ明るい内から夜の運動会ネ」
「まっさかぁ。銀さんはともかく、柚希さんはそういう人じゃないでしょ。神楽ちゃん、下種の勘繰りし過ぎだよ」
例のごとく神楽の危険なネタ振りに、新八が苦笑しながら言う。しかし新八から諫められたところで、めげるような神楽では無い。
「そうアルか? 意外と清純そうに見えて、実は裏の顔を持ってるかもしれないネ。男は獣、女は魔物って言うアルよ」
「……ほんと神楽ちゃんって、どこからそういう知識を拾ってくるわけ?」
「サドがよく言ってるネ。気の強い魔物を下僕にするのがまた快感だって」
「一度あちらの保護者とじっくり話をした方が良さそうだな……。っつーか、うら若き乙女に何教え込んでんだよ、沖田さんは!……っと、そんな事より、銀さぁん。帰ってますかぁ?」
聞こえていた会話と、ドタバタと賑やかに近付いてくる二人の足音に、銀時のこめかみがヒクヒクと震えている。
目の前の柚希と部屋の外を見比べ、一瞬迷ったようにも見えた銀時だったが、様々な感情の綯交ぜになった表情でハァッとため息を吐くと、優しく柚希の頭を撫でてから立ち上がった。
「続きはまた、な。着替えたらこっち来いよ」
そう言って、自分が出られる最小限の広さに襖を開け、部屋を滑り出る。それは新八たちと丁度目が合うタイミングだったようだ。
「やっぱり銀さん、帰ってたんですね」
新八のさわやかな声と同時に、銀時が襖を後ろ手に閉める。隙間から銀時たちの姿が見えなくなる直前、指で丸を作っていたのは、時間を稼いでやるという事だろうか。
「私たちがいない間に、どんだけ競技進めたネ? 柚希と何種目制覇したカ?」
「お前ねェ、頭ン中が爛れ過ぎだっての。しばらくドS王子に会うの禁止な。柚希は今着替え中だから、出てくるまで待ってろよ」
「はーい」と素直な声が聞こえ、三人の気配が部屋の前から遠のいていく。それに呼応するかのように、すぐ側に置いてあった着替えを抱きかかえて聞き耳を立てていた柚希の体からは、ドッと力が抜けた。
「あー、焦った……」
バクバクと激しく脈打つ心臓に落ち着くよう言い聞かせながら、いつの間にか頬を伝っていた冷や汗を拭う。
その気になっていた自分が恥ずかしくなり、叫びそうになるのを必死で堪えた。まさか本当に夜の運動会を開催しようとしていたなんて、口が裂けても彼らの前では言えない。
「でも、ちょっと惜しかったかな……なんて」
そこに誰もいないからこそ小さく言える本音が、思い出させる銀時の熱。
先ほどまで銀時が触れていた胸の先端は未だ、あの愛しい温もりを待っているかのように尖ったままだ。
「もうこんな日が来るなんて、思ってなかったからなぁ」
そう言ってフッと笑みをこぼした柚希だったが、瞳には何故か悲し気な色が浮かんでいた。
「ねぇシロ、私は全てを思い出したけど……」
大きく着物を振り開き、自らの肩にかける。
「もう一つ『枷』があったことも、思い出しちゃったんだよね」
素早く身なりを整え、パチンと頬を叩いた柚希は、何かを決意するかのように前を見据えた。だがその意味が、口にされる事は無い。
「さて、と。皆待ってるかな?」
わざとらしいほどに明るい声で言った柚希は、襖を開けた。
「お待たせ」
「何ぐずぐずやってたアルか、柚希! 待ちくたびれたネ」
「着替えは終わりました? 姉上の買い物のついでに甘い物を買ってきたので、一緒にお茶にしましょう」
早速聞こえてきた子供たちの声に、柚希の頬が緩む。チラリと椅子に座ってジャンプを読んでいた銀時を見れば、死んだ魚のような目で気怠そうにしながらも、口元は微笑んでいた。その表情から銀時が、どれだけ彼らを大切に思っているのかが伝わってくる。
駆け寄って来た神楽に腕を引っ張られながら、改めて柚希は思った。
――本当に良い仲間たちと出会えたんだね。シロ。
と。
「ほら、待たせたお詫びに柚希がお茶を淹れるネ。さっさとしろヨ」
「はいはい。急いで準備させていただきます」
「あ、柚希さん。今回は洋菓子なので紅茶にしませんか?……って銀さん、未だ食べちゃダメですってば!」
「これは味見だからね。毒が入ってないかチェックしてるだけだからねッ」
「ふざけんなヨこの腐れ天パ! お前はいちご牛乳の海で溺れ死ぬヨロシ」
「……神楽ちゃん、多分それ銀時にはご褒美だよ」
「マジでか? いちご牛乳まみれがご褒美って、銀ちゃんはマゾだったアルか」
「いやいや、いくら銀さんでも溺れ死ぬのは嫌だからね? でもまァ柚希に溺れて腹上死……グハァッ!」
テンポの良い会話の終わりは、まさかの強烈な柚希のげんこつで。
白目を剥いて倒れる銀時に、真っ青な顔の新八と笑い転げる神楽を見ていれば、思わず柚希も吹き出してしまう。それにつられて笑いだす新八と、不貞腐れる銀時の姿にますます笑いが止まらない。やがて銀時まで一緒に笑い出し、部屋が笑顔で一杯になっていく。
そんな中、柚希が秘かに願っていたのは『私も彼らと一緒に、いつまでもこの幸せな時を過ごしたい』という事。
だが、その小さな願いに水を差す出来事が近付いている事を、この時の柚希は未だ、知らないーー。
第二章 ~松陽~(83P)に続く
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